居候初日 その�� ページ9
冬也の腕を引っ張り、連れてきたのは空き教室。
いつもはどこかの部活が使っているようだが、今日は誰もいない。
「……なんで」
冬也が絞り出したような声で言う。
「なんでそんなに干渉するの」
「なんでって…」
「怒ってもいいはずじゃん。勝手に家に押し掛けられてさ」
「…」
「だいたいお前、俺に優しすぎるんだよ。ワガママばっかり言ってんのにさ」
「……でもしょうがないだろ。いちいち嫌な顔してても、何も進まないし」
「……」
「第一、付き合う前から分かってただろそんなの。」
「……そんなお前が好きだって？」
「そこまで言ってねえけど……まあ、そういうことだな」
「……お人好しすぎる」
「悪いかよ」
「……いや」
「…で？結局何があったわけ？」
話を逸らす冬也に、また同じ話題を振る。
「……言えない」
「なんで」
苦しげな声をあげる冬也に、俺は質問を重ねた。
「言えるわけ、ねえじゃん…」
「……お前なに無理してんの」
冬也の頬に、一筋の涙が伝う。
「今さらっ……言えるわけねえじゃん……っ！母さんたちがいなくなって……それ思い出してつらいとか………お前にだって言えるわけねぇっ……！！！」
拳をぎゅっと握り、そう言う冬也に、溜め息ひとつ。
「……なんだよ、そんなことか」
「そんなことってっ…！」
猛る冬也の唇に、キスを落とす。
「……っ！」
「なにらしくねえこと言ってんだよ。いつも好き勝手言うくせに。今更だ」
「でもこんなこと言ったって…お前困らせるだけだっ……」
「それも今更だって」
そう言って苦笑すると、冬也は抱き付いてきた。
「なぁ冬也、迷惑かけたくないとか、考えんなよ。お前は、自分勝手でいいから。」
「自分勝手すぎるのは難点だけどな」と付け足す。
「ごめっ……ん……こう、へぃ……」
「はいはい」
俺はそう言って、一定のリズムで冬也の背中を叩いてやる。
「ずっ…と、好き、だよ」
嗚咽を漏らしながらも素直な冬也に、俺はもう一度苦笑した。
「いつも素直でいてくれよ」
───数日後───
「ごめん航平！セーブデータ消しちゃったけど航平なら許してくれるよね♥️」
「殴るぞ反省しろ」
冬也は今まで以上に自分勝手になったとさ。
───まあ、あんまいつもと変わんねえけど。
───────
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作者名：紺狐 | 作成日時：2019年5月27日 17時
