167.あたたかい雨 ページ17
雨音に耳を澄ませて目を閉じていると、
「…綺麗。」
と、心地よい音がした。
彼女に顔を向けると、うつろな目でこちらを見ていた。
どこかいつもと違う。そんな気がした。
「…A?」
すると突然Aの身体が傾き、
その場へ倒れ込みそうになった。
「…っと。」
彼女を抱き止めると、妙にその身体が熱いように感じた。
「…大丈夫か?
ひどい熱じゃないか!いったいいつから?」
寒気がするのか、小刻みに身体を震わせている。
「仕事中から、なんとなく頭が働かなくて…」
「…無理していたのだな。」
「大丈夫です。自分で帰れますから…」
「馬鹿なことを言うな。」
熱が出た上に、雨で身体を濡らしてしまったな…
俺は隊服の上を脱ぎ、シャツ一枚になると
脱いだ隊服もAに羽織らせた。
「…これでは杏寿郎さんが風邪を引いてしまいます。」
「構わない。」
「…い…やです。」
Aは謙虚で芯が強いので、時々折れてはくれない。
しかし、こんな時は折れてくれなければ困る。
彼女の鼻を軽くつまんで、
「俺の言うことを聞きなさい。」
と、ひとこと言うと、Aは黙って頷いた。
叩くように降っていた雨は少し弱まり、
優しく、冷たく、草木を濡らしている。
「じきに雨は止むだろう。
そうしたら、一緒に生家へと向かおう。」
「…はい。」
次第に立っていることが辛くなってしまったのか、
Aはその場にしゃがみ込んでしまった。
「…辛いな。ちょっと待ってくれ。」
すぐにでも横にならせてあげたいが、
そうもいかないので、俺は彼女に背を向けて腰を下ろした。
「ほら、乗るといい!」
「…え!?」
「この方が君は楽だろう?」
せめておぶさっている方が良いかと思い、
彼女に提案してみたものの…
「えっと…」
と、躊躇っている。
「A」
俺の声に観念したのか、
彼女はおずおずと背中に身体をあずけてきた。
「…ありがとうございます。」
「うむ。」
背中にAのぬくもりを感じる。
朧げな意識の中、彼女が小さな声で呟いた。
「杏寿郎…さん。ずっと…そばに…」
肩が濡れた気がした。
雨だ。
あたたかくて、優しい、愛おしい雨。
ごめんな、A。
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狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2022年9月6日 22時