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175.勿忘草 ページ25

 

 時は薬という。

 いつの日か負った胸の傷も、次第に瘡蓋になっていく。


 彼女の心こそ見えはしない。

 酷く傷つけたことも分かっている。



 それでも、夕刻ごろ、時々Aが刺繍工場の柳田さんと

 話しながら歩くのを見かけては"これで良かった"と思い、

 彼女の幸せを願っていた。



 次第に暖かくなり、白かった世界は雪解けを迎えた。


 鶯が上手に歌を歌い、霞がかった山は春色に染まる。


 ふと薄青色の小さな花が目に止まり、野に腰を下ろした。

 指先でそっと触れてみる。



 "勿忘草"といったか。Aに教わった花だ。
 


 風に誘われて踊るように揺れている。


 すると、ひらひらと淡い桃色の花弁が落ちてきた。

 上に目を向けると大きな桜の木が目に映る。


「よもや、そこにいたのか…」


 勿忘草に目を奪われ夢中になっていたので、

 頭上に桜が咲いていることに気づかなかった。



 目を閉じるとAと見た夜桜が浮かんで、

 俺の周りは彼女との思い出でいっぱいだということに

 改めて気づかされた。


「こんなにも君がいる…」


 そんなことを呟くと、

 勿忘草は"忘れないで"と言わんばかりに大きく揺れた。



 忘れはしない。Aとの幸せな思い出があれば十分だ。

 それだけで俺は生きていける。



 無意識に足は思い出の高台へと向いていた。

 
 坂道を登ると、街一面が薄紅色に染まった景色が

 目に入ってきてしばらくそれを眺めていた。

 
 以前、Aと見たのは夜桜だったからな…

 昼と夜ではこうも見える景色が変わるのか、と思うと同時に

 "A"と共に見たいという…己の欲が心の奥底から顔を

 出しそうになって、ふうっと深呼吸をした。



 任務に赴くまで腰掛けに座ろうと、

 一人、桜のトンネルを抜けた。



 すると、そこには先客が腰を下ろしていた。


 後ろ姿だけでも分かる。


 Aだ。


 俺が彼女に贈った簪が太陽の光を浴びてきらりと輝く。


 声をかけるか躊躇ったが…

 静かに近づいて隣に腰を下ろした。


 すると隣から規則的な寝息が聞こえてきて、

 思わず彼女の顔を覗き込んでしまった。


「A?」


 呼んでも反応はなく、どうやらうたた寝をしているらしい。

「暖かくて気持ちいいからな。」

 幸せそうに微笑む彼女の頭をおずおずと撫でた。

 こんな可愛い顔をして…無防備だな。


 隙がありすぎて、俺は心配になる。

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年9月6日 22時

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