アヤメのハンカチ【煉獄杏寿郎】

45.青天の霹靂 ページ45

湯浴みを終え、


　縁側を通って自室へと戻る。


　芯から温まった身体に夜風が心地よい。



　畳に腰を下ろすと、

　胡蝶から預かった軟膏が目に入った。

　
　すると、千寿郎と抱き合って

　涙を落としていたAの姿がおぼろげに目に浮かんだ。


　なぜだろうか。

　もっと彼女のことを知りたいと思ってしまう。

　この家に身を寄せる者だからだろうか…



　軟膏を手に取ると、隣の部屋のAに声をかけた。


「A、杏寿郎だ。入っても良いだろうか？」


「…はい！どうぞ！」


　思っていたよりも大きな声が襖の奥から返ってきた。


「もう寝るところだったか？

　すまないな！背中の薬を塗ってあげよう！」


「…ありがとうございます。」


　俺はAの背後に腰を下ろして軟膏の蓋を開ける。


　しかし、Aがなかなか浴衣を脱ごうとしないので


　不思議に思っていると、彼女は突然こちらに振り向いた。



「きょ、杏寿郎さん！

　やっぱり、自分で塗りますから、大丈夫です！」


　Aは俺の手から勢いよく薬を取りあげた。


　急なことで思わず驚いてしまった。


「なぜだ？背中は自分では塗れないだろう？

　遠慮しないでくれ！」


　俺の言葉にしばらく眉間に皺をよせて

　考え込んでいたかと思うと、今度は声を上げ出した。



「…いっいいい！！！！」


「どうした！？どこか痛いのか！？」


「いや！！その！！」


「なんだ！？」


　どうしたのだろうか？様子がおかしい。

　心配で俺が顔を近づけると、

　Aは俺の胸に手を当てて押し返す。


「は、離れて…ください〜！近いですっ！」


「…すまない！」


　あまりにも様子が変なので

　落ち着かせようと近づきすぎてしまった。


「そ、その！い、許嫁…！！」


「ん？」


「杏寿郎さん、許嫁がいらっしゃるのですよね？

　そのような殿方に、

　よその女が肌を見せるなどしてはいけないかと…！」


「…」


　まさかAから許嫁の話が出てくるとは思わず、


　しばらく言葉が出なかった。

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