アヤメのハンカチ【煉獄杏寿郎】

44.心はそばに ページ44

　任務を終えた俺は

　管轄内の見回りをしながら

　帰路についていた。


　歓楽街か…


　能や歌舞伎が好きで、

　少し前までは休みの日があれば行ったものだが、

　柱になってからは遠のいてしまっていたな。

　
　そういえば亡くなった母も能楽が好きだった。




　Aはどうだろうか？

　興味があったりするものだろうか？

　いつか千寿郎と一緒に連れて行くのも良いな！



　そんなことを考えていると

　あっという間に生家に着いた。



「ただいま戻った…」



　玄関の扉を開けると、


　廊下で千寿郎とAが抱き合って涙を流していた。



　ん？どういう状況だ？



「…あ！杏寿郎さん！！おかえりなさい！」


　Aは咄嗟に千寿郎から離れて、涙を拭う。


「どうした！？何かあったのか！？」


　なぜ泣いている？

　俺が慌てて二人に駆け寄ると、Aが口を開いた。


「いえ！二人で怪談話をしていたら、

　物音がして怖くなってしまったのですよ！！

　でも音の正体は野良猫でした！！」


　怪談話…？


　Aの瞳が酷く揺れている。


　生唾を飲むような仕草、


　なるほど…これは嘘だな。


　何か言いたくないような話なのだろう。


　ならばそれ以上踏み込むことはやめよう。


「そうか！夜にするものではないな！」


　俺がそう言うとAは安堵したような表情をする。


　千寿郎も泣いていたとなると…

　父上関係の話だろうか。

　先程の状況から察するに、

　Aは千寿郎の心に寄り添って

　涙を流したのかもしれない。




「兄上、おかえりなさい。湯浴みの準備ができています。」


「そうか！助かるぞ、千寿郎！いつもありがとう。」


　千寿郎、忘れないでくれ。



　たとえ離れていても、



　いつだって俺も



　お前の心に寄り添っている。



　

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