影だけは ページ44
ふたりで電車に乗り込むと、車内もスカスカだった。
真っ暗な向かいの車窓に映る私たちの影だけは、カップルみたいに見えたりするのかな。
｢…なんかお前、寒そうだね？｣
｢そう、ですか？｣
｢ん、なぁんで校則オッケーなのにマフラーぐらいしないのよ。笑 1月よ？真冬。笑｣
ぁい、って先生は自分のマフラーを取ると、横に座る私の方へ向いて首元に腕をまわす。
｢女の子はあったかくしないとねー。｣
なんかこれ、やばいです。先生の匂いがする。
｢なぁんでか分かんないんだけどさ、俺の高校マフラーダメだったんだよねぇ。あれ、今でもなぞだわ。笑｣
｢…珍しいですね。｣
先生の学生時代…！滅多に聞かないから、ドクンと心臓が跳ね上がる。
｢いっつも寒そうなコに、俺マフラーしてればなぁって思ってたよねー。笑 今そん時の気持ち思い出したわ。｣
あれ、あれれ。なんだかちょっと、チクッと痛い。
｢…カノジョさん、とかですか？｣
｢あぁ、え？俺そんな言い方だった？｣
一瞬だけ、やべって瞳が揺れてすぐ戻る。先生って結構分かりやすい。
なんだか勝手に、昔の彼女を問い詰める今カノの気分だ。烏滸がましいけど。
｢まーねー。深澤にも淡い思い出のひとつやふたつ、あるわけよ。笑 もう29だしねー。｣
29。
知ってたけど。1992年って名乗ったあの日、あの時に、速攻で引き算して28なんだって思ったけど。
実際に本人から年齢を聞くのは初めてで、大人っぽくてキュンとする気持ちと、改めて離れた年の差にズキッと、複雑な気持ち。
｢なぁんでそんな複雑そうな顔してんのよ。笑 どうなのよ、青春真っ只中の賢木ちゃんは。｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 551人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あやめ
| 作成日時：2023年10月21日 5時
