オンナノコ ページ33
秋なのにまだまだ暑いですね、なんて言ってた数分前とは打って変わって、ゾゾっと寒気がした。
準備室に着いて、
｢やー、良くない良くない。悪いこと言わないから俺のパーカー着ときな？｣
と、渡されたのは、無地の黒いパーカー。
｢あ、えと…すみません…｣
出した声は思いのほか、掠れてた。
｢おーおー…怖いよね、ごめんごめん。｣
そう言って頭をぽんぽんする手は信じられないくらい優しくて。
手に持ったパーカーのチャックが小さく揺れて当たって、カチカチって音がして初めて、怖いんだ、って気づいた。震えてるんだ、って。
困ったように眉を下げて、それでもなにか愛おしいもの見るみたいにふにゃって目尻を下げた先生は、
｢女の子は大変だよね。…きっと、これからみんなどんどん大人に、綺麗になって、どんどん大変な思い増えると思う。｣
そう言いながら、私の手にギュッと固く握られたパーカーを、力入れすぎよ、って小さく笑って取ると、
｢男は女の子を守る生きもんなのに、ね。｣
ふわっと、腕をまわして肩にパーカーがかけられて。
そのままギュッと引き寄せられた。
｢いーい？オンナノコはオトコに守られる生きもんなの。｣
さっき机の下で微かに香った香りが、鼻をかすめる。
ふわふわしてるとばかり思ってた声は、近くで聞くとちょっとだけ低く聞こえる。
いつも気だるげに背中は丸まってるけど、背はしっかり頭ひとつ分高い。
細い細いと思ってた腕や肩は、思ったよりがっしりしててひろかった。
あれだけ男の人に嫌悪感を抱いたのに。
先生にオトコの人を感じて。
矛盾だ、なんて頭の片隅で考えてた。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年10月21日 5時
