それって ページ32
客足もひと段落してお手洗いに行こうと教室を出ると、外部の人で溢れる廊下。
これはお手洗いも大混雑かな。
たしか、別校舎は外部立ち入り禁止になってたはずだから、そっちへ行くことにした。
渡り廊下を渡ると、嘘みたいに人ひとりいなくてこれは正解だった！と満足気に歩いていると。
｢いたー賢木ちゃん。｣
と、気だるげに先生はポケットに手を突っ込みながらこっちへ歩いてきた。
｢あれ、先生…？なんですか？｣
｢んー、なんつーか…上に羽織るもんとか、持ってる？｣
9月後半とはいえ、まだまだ暑い。首を横に振ると
｢だよなー…貸したげるからついてきてー。｣
と、いつかみたいにまた前を歩き出した。
｢あの、私、寒くないです。｣
｢だよねーわかる。いつになったら秋になんのって感じ。｣
いえ、そうじゃなくて…
そう言おうとすると、先生は前を向いたまま言葉を続けた。
｢さっきの男たち、なんつーか……ごめん。ちょっとキモい話すんだけど。｣
いつも飄々と話す先生の気まずそうな、言葉を選ぶ様子に緊張が走る。
｢かがんでる賢木ちゃんの後ろ？、にスマホ向けたり？しててさ。｣
…ん？
｢前で一緒にかかんでた男いたっしょ？…あいつもシャツの胸ポケにスマホ、あったし。｣
あれ、それって、
｢盗撮？的な。あ、でも大丈夫。…いや、まあ何が大丈夫だよって話だけどさ。…あいつら教室から出た時にスマホ見してもらって消させた。そのまま警備んとこ連れてったし。｣
先生はゆっくり、言葉を選びながら話した。
どんな顔してたかは、見えなかった。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年10月21日 5時
