ニガテ ページ46
｢どしたぁ？もう会いたくなっちゃった？笑｣
呑気な声。
いつも溶けそうになるほど甘い声も、今ばかりはそれどころじゃない。
｢…深澤さん…たすけてください…｣
｢んぇ？！何……とりあえず分かった、戻るわ。｣
私の声色に、ただならぬ事情を察したのかそれだけ言って電話は切れた。
インターフォンの音に反応して、少しだけ動くアイツ。
できるだけ静かにオートロックを解除して、目を離したうちにいなくならないよう忍び足で玄関の鍵も開けに行った。
綿鍋A鍵開いてるので、静かに入ってきてください!
既読だけついてしばらくすると、
｢お邪魔しまーす。｣
なんて声が聞こえた。何かを察して小声なのは有難い。
｢さっきぶりー…どした？｣
｢深澤さん……アレ……｣
指さす先をゆっくりと視線が辿る。
｢……げ！！キモ！！！｣
｢そうなんです…！しかもうち、スプレーなくて。…あ、コンビニでお願いすればよかった…｣
｢んもう…そう言ってよぉ…俺もちょーニガテなんだけど。うわどしよ…これ…｣
そう言いつつ、これ使ってもいい？なんて近くのチラシ達を丸めてへっぴり腰で近づき始める。
頼っといてあれだけど、かなりポンコツそうで少しだけ笑いそうになる。いつにも増して声も姿勢も、表情でさえもへにゃへにゃ。
腰の引け具合から本当にニガテそうなのに、それでも迷うことなく当たり前かのように私の前に立つ深澤さんに、守られてるような気がして、男の人だなあ、って。そんな事考えながら丸まった背中をじーっと見てた。
｢…うわぁー近くで見れば見るほどキモイよぉ…もうまじ無理！ヤダヤダヤダ…どうしよぉ…｣
いつもの何倍もふにゃふにゃしすぎて、最早おねえ口調みたいな声。
きっと、首のすわらない赤ちゃんなんかにも、こんな感じで柔らかく不安げに話すんだろうな。
優しすぎて、泣きたくなるような、好きな声。
結局何分もかけてゆっくり間合いを詰めたあと、やー！！なんて近所迷惑スレスレの大声とともに一発で仕留めてくれた。
｢ほんとに…ありがとうございました…｣
｢いや、全然…｣
全然という風にはお世辞にも見えないほど疲弊している。
こっちとしても、申し訳ないことしたなって罪悪感でいっぱい。
｢せっかく今日楽しかったのに、最後の最後にこんな嫌な思いさせちゃって……あ、そうだ、コーヒーでも入れますね。｣
せめて楽しい1日の終わりに塗り替えようと、キッチンに立った。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年11月18日 5時
