ずっとそのまんまでいてね ページ44
食べるのが早い深澤さんはすぐに食べ終わって、ゆっくりでいーよ、と頬杖をつきながら緩く笑ってる。
いやいや、
｢そんなに見られると食べづらいんですが…｣
｢いいじゃん、リスみたいでかあいーよ。笑｣
｢褒めてます？それ。｣
軽口を言い合いながら食べ終わると既に時間は17時半を指していた。
｢すみません、ごちさうさまでした。｣
｢あい、どういたしましてー。まだ時間ある？｣
｢はい。この後は何もないです。｣
｢よし！じゃあもういっちょデートらしいとこ行こっか。｣
デートって言葉にギュッと心臓がつかまれる。…この人、根っからの人たらしだ。
心做しかご機嫌で歩く深澤さんの後を離れて歩いていると、これまた近所の、こんなところにこんなオシャレなお店が？ってバーに入っていった。
｢お！深澤さん！久しぶりですね！｣
｢ごめんごめん、忙しくてなかなか来れなくて！｣
嘘です。この人結構な多忙の合間を縫って、高頻度でcottonにいますけどね。
｢ふたり、いーい？｣
｢はい！こちらのお席どうぞ。｣
｢綿ちゃんこっち、おいで。｣
促されるまま席についてかんぱーい、とグラスを鳴らす。
｢ね、今書いてるやつ、出たら教えてね。｣
｢あ、はい…別にいいんですけど…読むんですか？｣
｢うんうん！だって俺が教えた知識とかが入ってたらうれしーじゃん。笑 監修って感じ！笑｣
大袈裟か！なんて楽しそうに笑ってる。
｢…今更ですけど、読まれるのは恥ずかしいですね…｣
｢それはほんと今更よ。俺いま何の撮影してると思ってんの。笑｣
｢たしかに…｣
｢俺ね、綿ちゃんの言葉好きなんだよねぇ。綺麗な日本語だし、本だけじゃなくて喋ってても頭よさそーで、…なんつーか真っ直ぐ伝わってくる感じ。｣
…ああ。言葉を扱う職の私にとってなんて嬉しい言葉だろう。今の言葉、箱にしまって鍵をかけてずっと胸にしまっておきたい。
深澤さんは人の喜ばせ方を分かりすぎてる。
｢お、照れてる照れてる。笑｣
｢そりゃ照れますよ…｣
｢ずっと、そのまんま真っ直ぐでいてね。｣
急に真剣な目に変わる。
どく、と脈打つ感覚が少し気持ち悪い。褒められてるのになんだか胸騒ぎがするような、そんな感覚。
｢私が真っ直ぐだとしたら、深澤さんは少し曲がっていて？掴めないです。｣
｢あは笑、そーお？でもそーかもねぇ。綿ちゃんの前だと駆け引きしたくなっちゃうんだよねぇ。笑｣
駆け引き、なんてどんな意図で言ってるの？
やっぱり掴めない。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年11月18日 5時
