ヒロイン・ファクター【tatsuya.f】 (ページ42)

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声や匂いでページ42

私たちを乗せた車は会場の関係者専用駐車場とやらについた。

さすが芸能人、こんな手配までできるんですね…。
一応ひとりで来た体(てい)だから、と先に下車する。

ピシッとスーツを着こなした男性の人に館内を案内されて着いたのは、バルコニーのようなガラス張りの関係者席。
ガラス張りでも、キュキュッてシューズの音は聞こえるんだ、なんて謎の感心。

周りには、明らかに芸能人らしいオーラの人もいれば、露骨にガタイのいいバスケ選手らしき人、どこかのお偉いさんみたいな年配の人。
場違いな気がして控えめに1番後ろの端に座った。
ああ、居づらい。早く深澤さん来ないかな。

そんなそわそわをよそに、会場はいつの間にか派手なオープニングが終わって体育館が暗くなり、真ん中の液晶にスターティングメンバーの紹介が始まる。
へぇ、試合以外にもこんな演出があるんだ。
たしかにこういうとこに実際に来ないと知らないことってあるもんだなぁなんて呑気に眺めていると、

｢お待たせ。｣

と、深澤さんが飲み物片手に、さっきはしてなかった帽子とメガネとマスクのフル装備をして横の席に座った。
ごめん、お茶でよかった？なんてさらっと紙コップを渡してくれる。
…この人、またモテスキル発動してるよ…。
いちいち複雑になるな、私。

大本命の試合は、素人から見てもハラハラして、手に汗を握るほどだった。
タイムアウトという名の休憩や、各クォーター？(試合は4つのパートに分かれていてひとつひとつをクォーターと言うらしい)間の時間になると、綿ちゃん意外と楽しそうで連れてきてよかったーなんて優しく笑ってくれるもんだから、もっと休憩ありますように、なんて思っちゃった。まったく。

あれがトラベリングって言ってー…とか大きい歓声の中聞こえるようにそっと耳打ちされる度にふわっと香水が香る。
話す時、目が合うように前かがみになって覗き込まれる度に脈が早くなって、目を逸らしたくなる。無自覚なのもずるいし厄介。小悪魔！人たらし！

私はもう深澤さんの声や匂いで姿を見なくても分かるんだろうな、なんて考えていると、ねえ聞いてるー？笑、なんて笑われた。ヤバ。バレた。