熊 ページ39
今日もご丁寧に、マンションのエントランスを一緒にくぐる。送るっていったらマンション前までが定石なのにいつもドア前まで来てくれる。
オートロックを抜けると、当たり前のようにノールックで繋がる手。これもいつもの流れ。
初めて繋がれた時は抵抗したけど、ここならいいでしょ？って。
なにがいいの？！いいって何！って未だ繋がれる度に心臓が暴れ出しちゃう。
送ってもらう度に、今日も中まで来てくれるかな、なんて変な淡い期待をするようになっちゃったの、深澤さんのせいです！
エレベーターに乗り込んで、迷うことなく深澤さんが私のフロアのボタンを押す。
｢んふ、綿ちゃんあったかい。ねむい？｣
｢たしかに最近ちょっと寝不足かもです。｣
｢そーなの？｣
覗き込まれる顔。
貴方と違って、そんな近くで見せれるような顔じゃないんで、やめてください…
つい俯くと、繋いでいない右手がほっぺに触れてゆっくりと顔をあげられて
｢ほんとだ、
と、親指で目の下をすりすりと撫でられた。
｢忙しそーだけど、ちゃんと寝んのよ？どーせろくに食事もとってないでしょ？｣
｢普通ですよ…｣
｢これを普通にしちゃだめ。笑 あんまり酷いと俺が管理するかんね？笑｣
そういう深澤さんだって、グループの仕事にドラマ、引っ張りだこのバラエティに隔週の生放送をこなしてて。
色白の顔にはしっかりクマがあるし、少食だからって言ってご飯を食べてるとこもあんまり見たことない。
｢深澤さんに言われたくありませんよ。｣
｢あら、それは結構痛いとこ突いてくる。笑｣
｢無理するなって言っても無理ですからね…せめて帰ってからのゲームの時間減らしてくださいよ！｣
｢えー。それも結局お仕事に繋がってるしなー。｣
たしかに。そういえばゲームのYouTubeもやってたっけ。
｢もうだれか俺のこと管理してー。笑｣
｢…お互いに？笑｣
｢悪くないかもね？笑｣
そんな他愛もない話をしてると、部屋の前まで着く。
｢じゃ、おやすみー。｣
｢ありがとうございました。おやすみなさい。｣
控えめに手を振った。
…え、付き合ってる？恋人？って都合よく解釈したくなるくらい甘くて優しい。
ただの友達にこれって。
深澤さんと付き合える女の子にはどんな待遇が待ってるんだろう。
…私がそんな人になれる未来はあるのかな。
というか、どう思われてるのかな。
え、友達でしょ？なんて平気で笑われそうで、怖くて聞けるわけないけど。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年11月18日 5時
