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向かう場所 ページ32

今日の撮影も終えて、現場を後にしようとした時。



知らない、背の高いイケメンの人に話しかけられた。

「あの…綿座さん。突然すみません。わたくし、こういう者でして…」

そう言って受け取った名刺には、深澤さんの事務所のマネージャーさん。


「えっと、何か。」
「すみません、大変失礼なのですが、お話がありまして。ここでは何ですから…。車内でもいいですか?」
「…分かりました。」




何だろう。ちょっと、いや、かなり怖い。
心当たりがないわけでもない。





後をついて行って黒い大きい車の後部座席を開けてもらって乗り込むと。








既に深澤さんが、いた。


………え?



ふたりで話すんじゃなかったの?


「…騙すようなことしてすみません。シートベルトお願いします。」





状況を理解する前に、まんまと車は発車した。


「綿ちゃん、こっち。」

と手を引かれて座ったのは隣。



いつかみたいにまた手を繋がれる。





「なに、考えてるんですか。」
「んー?いけばわかるよ。」
「もう、こういうの辞めてください!」
「ん、辞めるよ、今日で辞める。」


なにを言ってもふわふわと返され、相手にされない。





それでも、繋がれた手を振り払うことができない。


こんなの、縋りたくなっちゃうよ。


いつもみたいにどうにかして欲しいって、思ってしまう。







守りたいのに。


たとえ、おんなじじゃなくても。






「ん、着いた?」
「着きました。…深澤さん、くれぐれも、」
「分かってるって。笑」



ふたりで向かう場所なんて、ここしかなかった。

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作者名:あやめ | 作成日時:2023年11月18日 5時

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