はじめまして？ ページ30
あぁ、これで終わった。
そう思った私は、完全に忘れてた。
｢主役を演じます、深澤辰哉さんです！｣
そう言って拍手で迎えられるのは、数日前、私の前で悲しそうに笑った人。
あの笑みが嘘だったかのようにみんなの中心で元気に笑ってる。
｢そして実は、原作者の綿座柊さんにも来て頂きました…！｣
そんな声が響くと、みんな拍手をして撮影スタジオ中をキョロキョロと眺め出す。同行してくれた土屋ちゃんに、先生ですよ、と背中を押されて前に出る。
後ろの方からひょこっと出てきた私を見た深澤さんの目が、揺れた。
こんな表情、初めて見た。
いつも私の前では余裕があって、ストーカーの時ですら冷静だった深澤さんの、驚いた顔。
｢えっ、と、綿座です。今回ドラマ化の話を頂いてとても光栄です。よろしくお願いします。｣
そう、緊張で震える声を出して頭をさげる。
あげた時にはもう、いつものように笑ってた。
私も、笑わなきゃ。
すぐにスタッフの人が次の紹介へとうつる。
元いたところに戻ると土屋ちゃんが
｢先生緊張しすぎて見てるこっちがドキドキしましたよ。笑｣
なんて笑っていた。
挨拶もそこそこに、すぐに撮影へと移り始める。
カメラセットの合間時間に、コツ、と革靴の音が横で止まった。
｢はじめまして、綿座先生。｣
｢…はじめまして。｣
｢俺、こんなえぐい小説書く人、どんな人なんだろーって思ってたんですよ。笑｣
どこかで聞いたことある言葉に思わず引き攣る。
｢そしたら、こんなに綺麗で可愛い方だったんですね？｣
…残酷だ。
はじめまして、なんて言いながら、私たちの記憶から言葉を選んでくる。
それなら。
｢…ありがとうございます。笑 でも外見だけじゃ分からないですよね。笑 やっぱり人は、内面だと思うんです。｣
そう言うと、満足そうに、そう来たかとでも言いたげな、悪ノリする時みたいに。
｢綿座先生の内面も、知ってみたくなりました。笑｣
そう言って笑った。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年11月18日 5時
