おんなじ ページ29
cottonに行けなくなった代わりと言っては物足りないけど、ちょっと離れたところに、似たような雰囲気のバーを見つけた。
恋しくなるけど、これでいい。
今の私にとっては、ここに居る時間が何も考えなくていい、1番大切な時間だった。
だったのに。
乱したのは、偶然やってきた、
｢…綿ちゃん。久しぶりだね？｣
深澤さんだった。
｢なん、で…こんなとこ、に。｣
｢なんではこっちのセリフでしょーよ。笑 急に来なくなっちゃって。｣
隣に座ると、フワッと深澤さんの香水の匂いがする。つい最近まで居たのに、既に懐かしい感覚。
このまま、助けて、なんて頼ってしまいたくなるような甘い蜜のような匂い。
｢それは、｣
｢まぁ、大方分かるけどねぇ？｣
首の下、鎖骨らへんを触られて、ヒヤッとする。
それは思いのほか触れた手が冷たかったからなのか、嫌いな人を見るような冷たい視線だったからなのか。
それとも。
｢こんな下手くそなキスマークなんて付けられちゃってね。｣
ああ、怒ってる。
あんなに優しい深澤さんが、私に対して怒ってる。
｢さすがの深澤さんも、彼のお話聞き流すの疲れちゃってさ？いい感じのお店ないかなーって。そしたらここ見つけたの。…俺らっておんなじような事、考えてるのかもね。｣
｢おんなじような、こと…｣
｢そ。おんなじ。｣
ずっと真っ直ぐに合ってた目が、伏せられる。
優しかった目が、色を失くす。
｢だから、止めないよ。Aちゃんが選んだ事は俺も、止めない。｣
泣いちゃだめだ。ここで名前を呼ばれるなんて。
｢今までありがとね？…綿ちゃん。｣
なんで深澤さんがそんなに悲しそうな顔するの。
それでもこれが私の選んだこと。
｢じゃーね。からだは大切にね。｣
そう言って香水の匂いを残して、去っていった。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年11月18日 5時
