確信犯 ページ11
｢綿ちゃん、やっほー。｣
そう言って当たり前に横に座るのは、今日も芸能人っぽい深澤さん。黒いパーカーには、そんなに主張しなくてもってくらい大きくハイブランドのロゴが付いてる。
｢…わたちゃん？｣
｢ん？あー。俺の友達の渡辺はなべって呼んでるから、こっちの綿鍋ちゃんは綿ちゃん！｣
渡辺、と聞いてすぐに、この前ネットで見た塩顔の彼の宣材写真を思い出す。あー、やっぱりやましい事してる気分。ごめんなさい。
内心気まずく思っている私の心情をよそに、ね？と、首を傾げる様はやっぱり可愛い。アイドル顔負けの可愛さ。
…いや、アイドルだった…。
そんなこと考えながら、心の中で忙しく色んな感情に駆られて黙ってしまってた私を見ると
｢え、やだった？ごめんごめん、Aちゃん！｣
と、勘違いして焦り出す。綺麗な手をパーにして、顔前でひらひらしながら慌てていて。
｢あっ、いえ、そういうわけじゃないです！笑 なんでも大丈夫ですよ、綿ちゃんって初めて呼ばれるあだ名で可愛いです。笑｣
｢そ？良かった！ハジメテいただきまーす。笑｣
深澤さんに呼ばれるAちゃんも、くすぐったくてちょっと好きだったけど。
ハジメテ、なんてニヒルに微笑む深澤さんを見て、アイドルって狡い。って思っちゃったからなんでもいいや。
｢ふっかさんもAも、忙しいのにいっつもありがとうございます。笑｣
｢いえいえ。綿ちゃんも仕事忙しい感じなんだ？いつも早い時間にいるよねぇ。定時あがりとかできてんの？｣
｢そうですねー…結構定時とかいう概念のない職種かも、です。｣
｢お！そうなんだ、俺もー。｣
ですよねー…。
｢ここは2軒目とかそれ以降に来る人が多いイメージなので、落ち着いた早い時間にいるのが好きなんです。｣
｢へえ、そうなんだー。たしかにこの時間は落ち着いてて俺も好きかも。｣
｢ですよねぇ。｣
｢綿ちゃんともゆっくり2人で話せるしねぇ。｣
｢え｣
なにそれ。
｢んは笑、顔あか！笑 こんなんで照れてたらすーぐ悪い男につかまるよ？笑｣
｢深澤さんが悪いですよ…。｣
えー？俺ー？なんて悪戯そうに笑う深澤さんは多分、確信犯ってやつ。
｢じゃあつかまってみるー？笑｣
悪い男だ。
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作者名：あやめ
| 作成日時：2023年11月18日 5時
