生きてきた ページ37
辰哉くん家の合鍵を使って、彼の家で "ただいま" を待った。
飾りになってた鍵がしっかり本来の役目を果たして、変わってないルームフレグランスの香りと、掃除好きな彼の変わってない綺麗な部屋。
無駄に高い物ばっかり飾ってある癖に、妙に生活感のないこの部屋と匂いに酷く安心して、座り込んで彼の帰りを待った。
おかえりって、言っても、いいんだよね。
勘違いなんかじゃ、ないよね。
そんな風に不安な内心は、運命みたいなドアの音がしても。
彼の薄く茶色がかった瞳に私が映り、痛そうで切なく、力の抜けたぎこちない微笑みに顔が歪んだのを見ても、消える事はなかったのに。
おかえりとただいまの、たった二言で。
よかった。
帰ってきて、よかったんだ。
そう安堵して、力なく腰が抜けそうになった時。
「A、」
ぎゅう、って。
苦しいくらいに強く、抱きしめられた。
痛いよ。
でももう、痛いくらいじゃないと駄目みたい。
「A、俺…、たくさん、傷つけた。」
「ううん。傷つけたのは私だよ。」
「悪くない、Aは悪くないんだよ。…精一杯生きてきただけの、女の子でしょ?」
精一杯、生きてきた。
私は私の人生を、精一杯、生きてきた。
「たくさん、間違えた。」
「……ううん、間違ってなんかないんだよ。…こうやって俺のとこに帰ってくるまでの道だったの。全部、全部ここに帰ってくるための道だよ。」
たくさん、寄り道したね。
でももう、間違わないよ。
「辰哉くん…、たくさん、ごめんね、」
「んもお…謝んないの!おれ、嬉しいんだよ?…結衣も奈月さんももう居ないけど、結衣はこうやってお前の中で生きてて。…何より、」
「Aが生きてることが、死ぬほど嬉しいんだよ。」
愛おしい。狂おしい。
生きるとか、死ぬとか。物騒なことばかりだけど。
自分の事が、大嫌いだった。
自分が生きてしまった事が、苦しかった。
「頼むからもうおれ、失いたくないんだよ、」
それでも、やっぱり。
「俺の前から居なくなんないでよ…、A、」
何度でもあなたに名前をよばれる度に。
私が私であることを気づかせてくれる度に。
好きになるの。
「Aは、Aだよ。俺の大切な、女の子なんだよ。」
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こけこっこ(プロフ) - あやめさん» わざわざありがとうございます!嬉しいです✨これからも頑張ってください!一ファンとして応援しております。 (3月12日 19時) (レス) id: 121e674881 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - こけこっこさん» 個別での返信控えていたのですが、素敵な記念日なので例外でお返事させて下さい。遅くなってしまいましたが、お誕生日おめでとうございます🎂「運命レベルの話じゃん?」って何処かで誰かが言ってました…笑 幸せな一年になるよう、ささやかながら祈ってます🕊 (3月12日 12時) (レス) id: 2da7584997 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - いつかまた、皆様の目に留まるご縁がありましたら、その時も愛して頂けますように…!「春になったら」、また何かの機会があるかもしれません…🤫(小声)本当にありがとうございました˘o˘̥ (3月12日 12時) (レス) id: 6cb06c0cd1 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - 完結して寂しい気持ちもあり、と多数の方にお声を頂いて、そんな風に愛してもらえる作品になった事を本当に嬉しく思います。涙 私の事を褒めて頂いてる言葉が多いですが、皆様の言葉こそ!ひとつひとつが素敵で心が掴まれるような大切な文ばかりです…♡ (3月12日 12時) (レス) id: 6cb06c0cd1 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - 久しぶりにログインしたら本当に本当に温かいコメントばかりで…皆様、ありがとうございます。時間が経ってしまったのと、有難いことに沢山の方に頂いているので、ここで一括でご挨拶とさせて頂きます( ;ᯅ; ) (3月12日 12時) (レス) id: 6cb06c0cd1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あやめ | 作成日時:2024年2月17日 17時