君と見る桜をもう一度… (ページ27)

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なんとなく覚えてる。

血の気が引く感覚、暖かい背中。

私が喋り始めたことに気づくと
奨くんは耳を酸素マスク間近に近づけて一生懸命、聞き取ろうとしてくれる。

『おんぶ…してくれた…とき？』

そう聞くと、少し控えめな笑顔で頷いた。

その辛そうな笑顔に耐えきれなくなってつい、背中を向けてしまう。

『…怒ってないの…？』

奨「なんで？」

『何も言わずに勝手に消えて…』

病室を包む静寂。

風で揺れる外の木の音しか聞こえない。

しばらくすると背中辺りのベッドがきしむ。

ほんの少し振り返れば、奨くんが背中合わせでベッドの上に腰を下ろしていた。

奨「最初はわけわかんなかったよ

俺なんかしたっけ？なんで？ってずっと思ってた」

「必死で街、走り回っても見つからないし

どれだけ電話しても繋がらないし

施設、電話しても"知りません"って。」

そこまでしてくれたんだ…

あの夜、1人あの家で、私が残した手紙を読んだ

奨くんの姿を想像すると胸が苦しくなる。

『ごめんなさい…』

涙が出てきて呼吸が浅くなる。

泣いたら苦しくなるよって大きな手で背中を撫でてくれる奨くんの優しさにまた涙が止まらない。

奨「もういいんだよ…

（人1）を見つけて

またこうして会えて…話が出来る。」

「それだけでいい…どうだっていい。」

「何やってんのさ…ほんと…

こんな…ボロボロになるまで1人で頑張ってさ…」

ベッドから降りて、
私の目の前の床に子供みたいに三角座りをした奨くん。

いかにも無理に微笑んだその目尻からは涙がこぼれ落ちた。

無意識にその涙を拭おうと手が伸びる。

それに気づいた奨くんが1歩前に近づいてくれた。

やっとの思いで拭った涙。

1年前と何も変わらない、

人懐っこい、猫みたいな笑顔で笑ってくれた。