君と見る桜をもう一度… (ページ24)

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（人1）に背を向けたまま数分経った頃、

背後でガサガサと布が擦れる音がする。

奨｢…！｣

首に回された細い手と背中に感じた僅かな温もり。

それはどっちも、今にも消えてしまいそうで

ついさっき見た（人1）の身体の傷が脳裏をよぎる。

奨｢ごめんね、ちょっと揺れるよ｣

背中に乗せた（人1）が揺れないように、そっと立ち上がる。

顔の前に手首を押さえる血だらけの小さな手が見えた。

奨｢ほら、ギュッて押さえてて…？｣

ハンカチを拾って渡せば大人しく受け取ってくれる。

その一瞬で、虚しさ、悲しみ、怒り。いろんな感情に襲われた。

おんぶして触れた太ももはゴリゴリと骨が触れるし、

何よりも軽すぎて、片手だけでもおんぶができてしまう。

それが…

（人1）がさっき発した言葉の現実味

そして、（人1）がどれだけの苦しみを乗り越えてきたのか

いかに自分がこの1年、なにも知らずに生きてきたのかを俺に痛いくらいに突きつける。

奨｢ゆっくり行くから、気持ち悪くなったら言って？｣

そう言うと、俺に掴まる手に一瞬、力が込められた。

わかったという返事なのだろう。

綺麗に磨かれた窓ガラスに反射して映る（人1）の表情は

返事をする余裕すらないように歪んでいるから。

1歩、1歩、ゆっくりとナースステーションを目指す。

あえて何も話さずにいたけど、その沈黙が俺には重たかった。

『奨くん……』

昨日、（人1）を見つけた渡り廊下に差し掛かったとき

背中から、今にも消えてしまいそうな声が聞こえた。

奨｢どうした？気持ち悪い？｣

立ち止まって振り返るけど、

おんぶじゃ、やっぱり（人1）の顔は見えない。

『…謝らないで…ごめんって…』

『何も悪いことしてないのに…謝ってたら

本当に自分が悪い気持ちになっちゃうよ』

（人1）は手首を押さえるのを辞めて

俺の服の肩らへんをギュッと握った。

奨｢っ…そ、そうだね。ごめんごめん｣

謝るなと言われたのにまた謝ってしまう。

泣いてる顔を見られたくなくて

（人1）をおんぶしていて良かったと思った。