君と見る桜をもう一度… (ページ3)

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3月____『君を見つけた季節』ページ3

窓を開けるには少し寒い季節。

いや、とても寒いと言った方が正しい。

だけど、俺は窓枠に手をかける。

この小さな窓から

あの大きな空に手を伸ばせば

失ったあの頃が戻ってくる気がして。

純「奨くん、閉めてや」

そんな純喜の声で現実に引き戻された。

振り返れば衣装の上から毛布にくるまった純喜が身震いして睨んでくる。

「ごめん、ごめん｣

冷たくなった指先で窓を閉めた。
どうやら自分の身体が冷えていくことにすら俺は気づいていなかったらしい。

ガラス越しに空を見上げる。

静かに雪を降らせる冬の空を

別に初めて見た訳でもないのに

なんだか愛おしく思えた。

スマホのカメラを開いて窓の外に向ける。

純「……もう1年やで。」

シャッターを押すその瞬間、純喜に背中を叩かれた。

だけどそれはいつもみたいに

気合を入れるものじゃなくて。

ぽんっと叩かれた背中から

「もうやめようよ」という

言葉にするには虚しすぎる気持ちが伝わってくる。

奨「そう…だね。ごめん。」

電源ボタンを押す指に力を込めた。

（人1）は日常の中に隠れた

小さな幸せを見つけることが上手だった。

道端に綺麗な花が咲いてたとき

初めて食べたものが美味しかったとき

可愛い犬と道ですれ違ったとき

空が綺麗な時

いつもどんなところでも

立ち止まってはスマホを開いて

ひとつひとつ、丁寧に

そして愛おしそうに写真に収めてた。

（人1）がいなくなったのは1年前。

あの日、「行ってきます」って

朝、ハグをして別れた家に帰った頃

既に（人1）はいなかった。

──────「奨くん、ごめんね。大好きだよ。」

机の上にたった1つ。

ぽつんと置かれた小さな紙に書かれた

（人1）の字を見た時の光景は今でも鮮明に蘇る。

やけに綺麗に並べられた靴

不自然な間隔をあけて並べられた食器

中身のない写真立て

「えっ…」と自分から漏れたその声だけが

物音1つしない家によく響いた。

夢中で夜の街を走った。

何時間も何時間も走った。

何日も、何日も探し回った。

だけど、（人1）を見つけることは出来なかった。

そして、虚しいことに

あっという間に季節は一巡した。