【銀魂】花一匁 参

第百三十三訓　夫婦喧嘩は犬も食わない ページ40

剣の太刀筋が速すぎて見えねェ

動きが速すぎて、残像が見えやがる

「宇宙中探してもこんなバイオレンスな夫婦喧嘩する奴なんていねェよ」

「そうかな？俺の母さんもハゲに向かって洗濯機とか投げてたけど」

「お前の母ちゃんマウンテンゴリラだろ」

 
「まさか貴方が“あんな事”を言うなんて思ってなかったわ」

「“あんな事”とは？」

白を切る虚に、思いきり顔を顰めた。

初体験、童貞発言、旦那宣言。

この短時間に よくもまあこれだけの事を言ってのけたものね、と感心すらした。

キッと睨みつけると、貼り付けた笑みを浮かべる貴方が目に映る。

「‥‥私、貴方のそういう所 嫌い」

ぴしゃりと言い切るAに、僅かに 虚の目が見開いた。

微笑みという仮面は剥がれ落ち、彼本来の顔が覗く。

「気を悪くしたなら謝りましょう。しかし、あなたの“伴侶”であった その事実に間違いはありません」

彼の言葉に、過去を辿る。

それは一体“いつの時”を指しているのだろう。

寅次郎の“恋人”として在った時か。

吉田松陽の“妻”として在った時か。

天照院奈落首領 虚の側近“黒巫女 鵺”として在った時か。

ぼんやりと頭の片隅で考えていると、背中に衝撃が走った。

両の手首を掴まれ、頭の上で一つに拘束される。

痛みに堪え 瞑った目を開くと、口元を三日月に描く貴方がいた。

「彼らはあなたの事を好いているのでしたね。だが、あなたには私という伴侶が存在している」

「‥‥“元”じゃなかったのかしら」

その問いに返答せず、喉元に這わせた人差し指を、ゆっくりと下へなぞる。

妖しげなその手つきに、顔を顰め 背けた。

襟元が崩れ、陶器のように白い肌が現れる。

だが その白く滑らかな胸元には、一際目立つ歪な古傷が一つ。

皮膚が隆起し、痣と化したそれを見据え、妖しく嗤った。

「ならば、せめて嬌声ぐらい聴かせてあげたら どうでしょう」

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