Episode181 ／ 師範代の思い ページ34
｢師範代。どうして三人に…いや二人に嘘をついたんですか？｣
Aが出ていった宿で修行をする二人。
そこには殺伐とした空気が漂っていた。
｢嘘じゃない。燃は心を鍛えるための大切な修行だよ。念を使うための、ね。｣
そう言ったウイングは、読んでいた本のページを破り、念を込めて缶ジュースに放った。
その紙は見事に缶ジュースを切断し、壁に刺さった。
｢さっきも言っただろう？念は時に人を傷つける。紙切れを刃と化し、逆に自らもの体を鋼で包み守ることも可能。｣
心当たりがあるのか、ズシは押し黙った。
かと思いきや
｢師範代…その本自分まだ読んでないっす…。ジュースも…自分のっす｣
静かに悲しそうに呟いた。
｢ああっ！ごめーん！｣
ウイングはどこか抜けている。
｢師範代…。1階でAさんと戦った時、自分が念を使ったことを怒らないんすか？｣
ズシは気に病んでいた。師の教えを破り、念を使ったことを。師が気づかないはずがない。なのにそれを師が何も言わない。
罪悪感だけが募って、とうとう自分から話した。
｢そうですね。私は念を使うなと言いました。その教えを破ったことは怒っています。｣
｢…っ、すみませんでした｣
｢ですが…あの時Aさんも念を使いました。目には目を歯には歯を。まぁ……彼女は念を使うつもりはなかったようですが。｣
ウイングは思う。
彼女は試合前、一度も念能力者とは感じさせなかった。
この宿に来た時も…脳天気そうに振る舞いながら、私が念能力者であることを常に警戒し、何かあればゴンくんやキルアくんを守れるようにしていた。
彼女は彼らの中でも最年少。
まさか…絶をずっとしていたとは思わなかった。
普段から絶をしていれば違和感は生まれない。
そして恐らく…彼女が本気で絶をすれば誰にも分からないだろう。
彼女はキケンだ。
彼らと…なぜ一緒にいるのか…。
その日ズシの修行は普段よりも厳しいものだったという。
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作者名：ろりお | 作成日時：2019年8月17日 22時
