Episode133 ／ 死なせない ページ34
｢Aー！！｣
意識が遠のきかけた時、誰かに名前を呼ばれた気がした。
私は海に飛び込んで目隠しを掴んだ。
そこまでは良かったのだが、船の進む時に生じる波に呑まれて私は水上に上がることが出来なくなった。
そして考え無しに飛び込んだ私の最大の問題点は、泳げないということ。
10歳ともなりながら、私は一度も海に入ったことがないし、もちろんプールもあるはずがない。
それに着衣中。服が重たくなって動くにも動けない。
そしてだんだんと意識が朦朧としてきたのだ。
水を飲み苦しくて藻掻くも思うように体が動かない。
助けてだれか
私の意識はそこで途絶えた。
｢キルア！Aが溺れてる！｣
｢なっ、ちょっと待てよ！おいゴン！！｣
上着を脱いでタンクトップになったゴンは、大きく息を吸って、キルアの制止も聞かずに海へ飛び込んだ。
残されたキルアは救命ボートを海へ落とすべく駆け回った。
｢Aー！｣
波に揉まれながら、Aの名前を叫ぶ。
水面に顔を出してAの姿を探すがどこにも見えない。
早くしないと…Aが…
その先を考えたくなくて、ゴンは闇雲にAを探した。
そのとき、
『ゴン！こっち！』
Aの声が聞こえた。
その声が聞こえた方へ行くと、意識のないAを抱えて溺れそうになっているテルがいた。
Aではないと分かったゴンは、思わず｢誰？｣と聞きそうになった。
が、それを堪えて別の言葉を発する。
｢大丈夫！？｣
『助けて…』
きっとこの時のテルの顔を旅団員が見たら驚きで目ん玉が落ちるだろう。
いつも強気で、A以外には警戒心剥き出しのテルが憔悴し切った顔で今にも泣きそうだからだ。
本人達は知らないが、Aとテルが2人になる場合のデメリットとして、Aの体調がテルにも影響する。
だから今もAが海水を飲んでしまったせいで起きている脱水症状がテルにも大きく影響しているのだ。
ゴンはAとテルをしっかりと掴みながら、先へと進んでしまった船を目指して泳いだ。
Aの命のタイムリミットは刻一刻と迫っていた。
ゴンは一度泳ぐのをやめて、テルに背中にAを乗せるように言った。
テルは言われた通りにすると、
『ゴン、私限界、だ…悪いがAを頼む』
そう言ってAと一体になった。
消えたテルに驚くことなくゴンは意志のこもった目を瞬かせた。
｢絶対、死なせるもんか｣
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作者名：ろりお | 作成日時：2019年8月4日 10時
