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その距離と、ふわりと香る珈琲の香りに伊地知の顔には熱が集まった。
「伊地知くん、それ急ぎの用かしら」
「え?…あ、いや、締切は明後日ですね」
その言葉にそう!と目を輝かせた彼女は伊地知の手を引いた。あわわ!!と伊地知は軽くパニックになる。
「良かったら、珈琲飲んでいかない?」
***
あれよあれよという間に伊地知はカウンセリング室のソファに腰掛けることとなった。五条がいつも座っているソファ、見た目からして柔らかそうだなとは思っていたが、自分が座るのは初めてだった。
「今日はね、インドネシア産のマンデリンなの。珈琲物産展で買ってきた豆なんだけどね、この珈琲、濃厚なケーキに合うらしいのよお」
そんな声にそうなんですね、と返しながら彼女を見つめた。
「昨日チーズケーキを焼いたから丁度いいかなって思って。チーズ大丈夫かしら?」
「あ!はい、好きです!」
良かったわあ、と笑う彼女がマグカップと皿を持って歩いてくる。先程も香った珈琲の匂い、伊地知は思わず感嘆の息を漏らす。
珈琲など、最近ではコンビニで買ったものしか飲んでいない。彼女の挽く珈琲はとても丁寧に処理されていて、美味しいと評判だった。
「伊地知くん、疲れてそうだったから。疲れた時には甘いものでしょう?いっぱい任務もあるし、大変だと思いけれど、今日くらいは休んでいってね」
ふわっと笑う彼女に、思わず泣きそうになった。
この人は昔から、唯一自分に優しくしてくれた先輩だった。傍若無人の五条、優等生の皮を被った夏油、そして我関せずの家入。その中で唯一、いつも笑いかけてくれる先輩、五条から、夏油からいつも庇ってくれる先輩…ずっと、憧れていた。
いただきます、と小さく声をあげて、珈琲を口に含む。嗚呼、噂通りだ。こんなにも美味しい珈琲を飲んだのは初めてだ。珈琲特有の酸味がない分、深いコクがある。
ケーキも食べた。彼女の言っていた通り、珈琲のコクのある苦味と、チーズケーキの濃厚な味は上手い具合に中和して、とても美味しかった。何より、手作りだとは思えないチーズケーキのクオリティに驚いて、伊地知は彼女の方に向き直る。
「とても、美味しいです、」
「あらあ。良かったわあ!チーズケーキ焼くの久しぶりだったのよ。そう言って貰えて安心したわあ」
ほっと安堵の息を吐く彼女に笑いかけ、再度マグカップに手をつけた。
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chiaki0708(プロフ) - 恵くんの恋を応援し隊 そして高専時代の五条さんの口の悪さ最高笑笑いってる姿が想像付きます笑笑 (2022年1月18日 18時) (レス) @page50 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
mari(プロフ) - 尊い、カウンセラー室の壁になりたいです。 (2021年12月28日 2時) (レス) @page49 id: e3d45e5295 (このIDを非表示/違反報告)
陽夏 - ほっこりしていて、素敵なお話ですネ!!読んでてほっこりしました! (2021年11月21日 17時) (レス) @page47 id: 5a0f0dfb22 (このIDを非表示/違反報告)
aya(プロフ) - 楓さん» 楓さん、コメントありがとうございます!!続編でもよろしくお願いいたします! (2021年7月19日 21時) (レス) id: b35ce74133 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 続編だとっ!これからも応援してます!頑張ってください(´∀`) (2021年7月17日 10時) (レス) id: 92699b37e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aya | 作成日時:2021年7月3日 21時