純粋と言う白紙に墨を足らす ページ7
＜東谷目線＞
「兄様は眠っているだけですよ、もう数日もすれば目覚めます。」
目の前の怨霊こと聖人君主の勇作は、そう語るが、私には分かる。
このままでは尾形は目覚めない。
彼はそんなつもりは無いだろうが、怨霊に分類される霊は、生者の命を吸い、力を強める。上限は、その霊の『思いの強さ』だ。勇作は、最早尾形を襲いたい程に強く思ってしまっていて、それが尾形の命を吸ってしまう要因だろう。
きっと、今の彼なら私のように霊感が無い人間にも実体化し、姿を見せれる筈だ。簡単に言えば有名な心霊現象の近くに居る、姿形が分かる霊。あれは恨みを抱く人間が消え、他の人間から『恐れ』と言う感情から力を作り、存在を維持しようとしているのだ。
恨み、怒り、そんな負の感情が無い場合において、他者からの恐れが怨霊の生命線と言っても過言じゃない。
とにかく、勇作を何とかしない限り、尾形は段々弱っていき、最終的には衰弱死だ。
「一応聞いておくけど、貴方は尾形上等兵殿から離れろ、言われたら離れられるかしら?」
「無理ですね。兄様と一分一秒だって離れたくない。やっと他者から邪魔されずに、好きなだけ兄様と居られるのに何故離れなければならないのですか?」
兄様愛強すぎる。これを尾形から離れさせ、あわよくば成仏させれるかな?とか思った過去の私に対して回し蹴りを食らわしたい。畜生。
ならば、せめてこれ以上生命力を吸わない為の方法を取ろう。そうすれば回復し、尾形も目覚めるだろう。しかし、あくまでも吸わないだけだ。元には戻らない。
「…これから、尾形上等兵殿を起こす儀式らしいものをするわ。勇作さんにも参加して欲しいの」
「良いですよっ!兄様が目覚めるのが早くなるに越したことはありませんからね」
了承も得た。
さて、先ずは勇作から始めよう。
＜月島目線＞
「月島、Aはこの部屋に入ってしまったのか?」
「そうですが…それが、どうかしましたか?」
鯉登少尉殿は、東谷に何か警告らしきものをしていた…、一体どうしたんだろうか。
今の彼は、東谷を心配しているような印象だ。初対面の女に心配、警告。
「東谷に惚れたので?」
それ以外にはあまり考えられない。確かに整った顔立ちをしついると思うが、一目惚れと言うものなのか?
「いや、違うぞ」
真顔で、呆れたように言われた。じゃあ何だと言うんだ
「あの部屋には変人が居る。尾形百之助を襲おうとする、な」
気付いたとき、俺は既に部屋の扉を勢い良く開けていた
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
