動き出す恋の時間

in菊池家 sideK ページ28

「…んと。けんと。健人起きて。」

あれ…？俺、呼ばれてる。
風磨の声だ。健人、だって。ふふ、夢見てるのかな。

「健人！」

はっと目が覚める。
うわーやべ、寝ちゃってたんだ俺。

タクシーはすでに止まっていた。
前を見ると、料金表示は0円になっている。
風磨が支払い、済ませちゃったみたい。

「おい、寝ぼけてんの？降りっぞ。」
「あ、うん。」

風磨に急かされ、慌てて荷物をまとめる。
俺が降りると、タクシーはそのまま走り去っていった。


あたりを見回す。
…あれ？ここって…？

右も、左も、住宅街。
とても食事処がありそうな雰囲気はない。
店は？ここ、どこ？

目の前に立つ風磨を見る。
俺と目が合うと、そのままくるっとUターンして後ろの家の門を開けた。
あ。もしかして、ここって。

「ようこそ、菊池家へ。」
やっぱり！？

…どうやら俺が寝ている間に連れてこられたのは、この男の自宅のようでした。



「健人、早く入って。」
「え、えいいの？」
「いいの。今日は日曜日で皆出かけてるし、変な気使わなくていいから。」

あ、ご家族みんないないの？
…てことは、風磨と二人っきり…！？

やばい。変に期待しちゃいそう。
落ち着け俺、そういうんじゃないから。

「どうぞ。」
玄関の扉を開けて、風磨が手招きする。
「…お、おじゃましまーす…」
恐る恐る中に入る。うわあ、風磨の家初めて！

通されたのはリビングだった。
「その辺座って、ゆっくりしてて。飯、何がいい？」
「えっ！？手料理！？」
「それ以外何があんだよ。出前でも取れってか？」
呆れたように言った風磨は、やれやれと肩をすくめた。

ふと、以前に出演した番組で風磨が言っていたことを思い出す。
「あ、オムライス。風磨得意って言ってたよね？オムライス食べたい！」
身を乗り出してリクエストすると、ちょっと驚いたように言う。
「え、そんなんでいいの？もうちょっと凝ったやつも作れるよ？」
「やだ、オムライスがいい！」

なんだかわがままな子供みたいになっちゃったけど、風磨は嬉しそうに笑って頷いた。
「りょーかい。ちょっと待ってて。」


家の中はすごく広々としていて、リビング、ダイニング、キッチンが一続きになっていた。
リビングのソファからでも、奥の部屋まで見渡せる。
風磨はそのままキッチンに行き、手を洗ってエプロンを付ける。

うわ、マジなエプロン姿。
雑誌の企画とかで見たことはあったけど、これガチなやつでしょ？
やばっ！

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