3話「ばーか」 ページ3
教室から少し離れた場所で、突然手が離された。
「びっくりした……」
「わ、悪かった」
「え!?」
私を見たかと思えば、ガバッと頭を下げられ驚く。頭が見える位置にある上に、急に謝られ何がなんだか分からない。
「急に腕つかんで歩いたりして、悪かった」
「あっ……! 大丈夫、案内しなきゃだったし!」
行こうか、と彼に言ったが目を見開いて動かない。困惑していると、ガシリと肩を掴まれた。
君は急に動くことしか出来ないのか……?
「お前、感情が無いのか……?」
「はぁ?」
何を言っているんだ、と思わず変な声が出る。未だに私の肩を掴んでいる彼の色は、やはり薄いが暗いの黄色をしていた。
表情から読み取って不安や驚きが混ざっているのだろう。
顔を伺っていると、佐野君はハッとして肩から手を離した。
「悪ぃ。案内、してくれ」
「う、うんっ」
それからは、無事に案内を済ませ教室に戻った。彼の色も最初に目にしたものになっている。
戻った時に、やはり睨まれたりはしたがそんなもの気にしてられなかった。
突然だが、私には感情が色として見える。今までの色もそれが見えるせいだ。そのためか、春香を除いて人をあまり信用していない。
色を見て憂鬱になったりなんてよくするから、感情が無いはずが無いんだけど……。
教卓の方から聞こえる数学を聞き流し、机の上で悶々とする。
「おい、藤川」
「はっ、はい!!」
珍しく落ち着いた声をした担任でもある新木先生に呼ばれ、勢いよく返事をした。
「私の授業を聞かないなんて、いい度胸だな」
「あ、あはは……すいません」
「許す代わりに、放課後は先生に仕事を頼まれてくれ」
「分かりました……」
「よし。授業続けるぞ〜」
最悪だ。
はぁ、と溜息をつくと隣からクスッと聞こえた。チラリと隣を見ると、佐野君が笑っていたのだ。私の視線に気づいた彼は、ノートにサラリと文字を書いて見せてくる。
その文字は「ばーか」と書いてあった。
馬鹿にしてやがる……。いや、実際にしてるのだけど。字が綺麗なのも腹が立つ。
ふいっと顔を逸らし、教卓を見るとまたクスクスッと聞こえる。許さん。
今日は散々な一日だ。そう叫ぶのを堪えてまた溜息をついた。
4話「天然たらし……?」→←2話「お前の隣、空いてるからな」
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作者名:朱音 | 作成日時:2017年1月24日 12時