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その優しさに、ますます何だか分からない涙が溢れる。
堪えても嗚咽は漏れるし、鼻をすする音が無駄に響いたけれど、山田はその事には一切触れて来なかった。
「いのちゃん、いのちゃん」
ふと、眠りの縁から意識が持ち上がる。
あれ、俺寝てた？
あれだけ眠れなかったのに？
「いのちゃん、そろそろメイク行かないと」
俺の肩を揺すって起こしてくれたのは大ちゃんだった。
頭の上に掛けられていたタオルをとって、のそりと起き上がる。
時計を見ると、あれから一時間ほど経っていた。
「みんなもう先に行ってるからさ。あといのちゃんだけだよ」
「マジで？ありがと。爆睡してたわ」
他のメンバーが来た事にも全く気が付かなかった。
ほんの一時間ほど眠っただけなのに、驚くほど頭もスッキリして体も軽い。
ソファの横にあるローテーブルに目をやると、来た時には無かった物が置いてある。
「………トマトだ」
「マネージャーがさっき買って来てたよ。いのちゃんが頼んだんじゃないの？どんだけ好きなのよ、トマト」
「ああ、うん」
ちょっと高級なプチトマト。
山田がマネージャーに頼んで買ってきて貰ったんだ。
俺が少しでも食べられるように。
キラキラしてて。
ストイックで。
ビジュアルも完璧で。
努力家で負けず嫌いでカリスマで。
なのに気遣いも出来て優しくて、押し付けがましくないとか。
あいつ、なんだよ。
なんなんだよ。
俺、天邪鬼だから。
やっぱり山田の事。
キライだわ。
届くわけない。
あんな凄い奴に。
あんなやつ。
だいっきらいだ。
了
俺の赤い星(スピッツ)
よろしければ、山田さん目線のお話もお試しください。
正夢
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作者名：たろう | 作成日時：2023年11月29日 21時
