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山田の手は俺の目元と頬の辺りに繊細に触れる。
「すげー隈出来てる。随分と痩せたし」
急に触れられて、何も言えずにいる俺を尻目に、山田はゆっくりと俺の目の隈を優しくなぞっている。
「ちゃんと食べてんの?」
「……ま、まあ」
あんまし食べられてないけど。
忙しいし、食欲も正直ないから。
「好きな物だけでもいいから、なるべく口にしたほうがいいよ。あと、温かいもん」
「……じゃあ、トマトと納豆」
「うわ、俺の嫌いなもん二大双璧じゃん」
「俺のアイデンティティを簡単に否定すんな」
「しかも両方冷たい食べもん」
「あ、ホントだね」
ふふ、とどちらからともなく頬が緩んだ。
自然に笑いが洩れるなんて、どのくらいぶりだろう。
張り詰めていた糸もほんの少しだけ緩んだ気がした。
「時間になったらちゃんと声かけるから、もし寝られそうなら少し寝なよ。楽屋暗くする?」
「あ、いや、そのままで良いよ。暗かったらみんなびっくりするし」
「………ん、分かった」
山田は優しく頷くと、俺からゆっくりと離れていった。
山田と二人きりでこんなに話をしたのは初めてかもしれない。
『あんた、やれる事はやってきたじゃん』
そう言った山田の言葉がぐるぐると頭の中を巡っている。
俺の事をメンバーとして認めてないと思っていた。
ずっと無関心で、俺の存在を気にも留めてないと思っていた。
俺はちゃんと。
山田に認められてた。
遥か遠くにいて、お星サマみたいにキラキラしてて、俺みたいな奴にはきっと見向きもしない。
そんな存在だと思っていた。
でも。
ちゃんと見てくれてた。
不意に目の奥が熱くなった。
やばい、泣く。
なんで。
弱ってるから?
我慢しようとしたけれど、目尻から涙が零れてしまった。
寝返りをうつふりをして、ソファの背もたれに顔を埋める。
一度制御出来なくなった感情は、後から後から溢れ出して、俺の涙を後押しする。
山田に気付かれないよう、腕で顔を隠すように体を丸めた。
ふわり。
頭のあたりにタオルのようなものが掛けられた。
「部屋、暗くしないかわり」
山田がボソッと呟いた。
わざわざタオルを取りに行ってくれたんだ。
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作者名:たろう | 作成日時:2023年11月29日 21時