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そんな時。
楽屋のドアが開く音がして、誰かが入って来た気配がした。
目を開けるのも億劫で、そのまま寝たフリを決め込む。
足音は少し躊躇した後に、ゆっくりと俺の横たわっているソファへと近付いてきた。
暫く待っても、ソファの傍から足音の主が移動する気配がない。
目を閉じていても、その視線が俺へと向けられているのがわかる。
妙な緊張感に耐えられなくなって、目を開けようとした時。
「だいぶ疲れてんね、伊野尾ちゃん。寝れてないでしょ？」
声の主があまりに意外で、思わず目を見開いた。
「や…まだ…」
まだメイク前だというのに、テレビの中と変わらない完璧な顔の山田が俺を見つめていた。
「あ、ごめん、ソファ？座る？」
慌てて起き上がろうとした俺の肩を、山田がそっと抑える。
「違うよ。そのまま寝てて」
普通に話しかけられるのが久しぶり過ぎて、リアクションに戸惑う。
「……疲れすぎると眠れないよね」
そう俺に語りかける声はたいそう優しく穏やかで、形の整った眉を下げてこちらを見下ろす表情には労りと心配が表れていた。
「今朝早かったからね。そんな疲れる程仕事してねーし」
お前と比べたら。
そんな卑屈な最後の言葉はぐっと飲み込む。
お前は俺には情も興味も無かったんじゃないのかよ。
楽屋で二人きりになったって、こうして話しかけてくる事なんて、滅多にないくせに。
頼むからこれ以上余計な神経使わせないでくれ。
なのに。
「最近の伊野尾ちゃんの仕事の詰め込み具合は異常だもん。疲れるに決まってるでしょ」
俺の天邪鬼な強がりをものともせず、俺にねぎらいの言葉をかける山田。
「……やっと人並みに仕事してんじゃね？今までサボりすぎたんだよ」
だって。
バックダンサーみたいだったじゃん、俺。
それがようやくメンバーの一人としての体をなしてきたんだ。
まだまだ足りないくらいじゃね？
「サボってなんかないでしょ」
相変わらず穏やかな口調で俺を窘めた山田。
「あんた、ずっとやれる事はやってきたじゃん」
捻くれた俺の自虐に怯まずそう言葉を継いで、俺の目元に手を伸ばした。
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作者名：たろう | 作成日時：2023年11月29日 21時
