10 ページ10
知念が言っていたあの人の魅力ってやつは、意外に早く世の中の人の知るところとなった。
スポットが急に当たり始めたあの人は、どんどん垢抜けていくように見えた。
アイドルらしからぬ下ネタや、物怖じしないキャラクターが、あの人のフワフワした見た目とのギャップで面白がられ、色々なメディアに露出し始めた。
本人やメンバーは何も変わらなかったけれど、周りの態度や扱いは今までとは雲泥の差だった。
その事に一番戸惑っているのはあの人だったろう。
マイペースでへらりと笑うのは相変わらずだったけれど、もともと丸くて幼い顔立ちは頬がこけ、薄かった体は更に痩せて骨張っていった。
楽屋で楽しそうに大ちゃんや知念とはしゃぐ姿も見掛けなくなり、慌ただしいスケジュールの合間にソファの背もたれと一体になって目を閉じている事が多くなった。
以前はあんなに楽しそうに大笑いしていたのに。
楽屋の弁当や差し入れを、それは美味しそうに頬張っていたのに。
メンバーにニコニコと笑いかけるあの笑顔も無くなった。
そんな日々が続いて。
グループ仕事の日、少し早めに着いて楽屋入りすると、先客がいることに気がついた。
奥のソファに力なく体を投げ出して横たわるあの人。
元々の入り時間よりだいぶ早いから、メンバーが来るまでの間ソファで休もうと思っていたのだろう。
普段はこんなふうにソファを占領する事などない人だから。
もし眠っていたら起こすのも忍びなくて、足音を立てずにそっと近づく。
服の上からでも分かる、痩せた体。
背が低い人ではないのに、二回りほど以前より小さく見える。
儚く消えそうなほど白い肌は、お世辞にも顔色が良いとは言えなかった。
こんなにも綺麗な顔をしているのに。
それをかき消してしまう程、濃い疲労と睡眠不足がその相貌を覆い尽くしていた。
ふと、数年前の自分を思い出す。
どれだけ仕事をしても努力をしても、報われずに徒労感だけに苛まれた頃。
食欲も無くなって、ベッドに入ってもロクに眠れず、他人の事にも自分の事にも無頓着になって、感情が麻痺しそうになっていた、あの頃。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 276人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たろう(プロフ) - 雪音さん» なんて嬉しいコメント！ありがとうございます。なかなか思ったように書けないなりにも、読んで頂いて感想まで頂いてホントに嬉しいです。気まぐれ更新ですが、またお目通し頂ければ嬉しいです。 (1月25日 22時) (
レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
雪音(プロフ) - 最後の2人が仲直りするシーンで感動して泣きそうになりました。たろうさんの書くお話いつも楽しみにしてます！ (1月25日 20時) (レス) id: 287eadd06c (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» ありがとうございます。これからもサツキさんに読んでいただけるように、頑張って更新したいと思います。 (1月24日 23時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
サツキ(プロフ) - 返信ありがとうございます！ヤバいです！たろうさんに読んでいただけていたとは…。なんか、ものすごく気恥ずかしいです💦たろうさんの紡ぐ綺麗な文が大好きです。お忙しい中とは思いますが、いろいろお話を楽しみにしています。 (1月24日 21時) (レス) id: 35bce03242 (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» コメントありがとうございます！なんて嬉しくて勿体無いお言葉を……（涙）。私もサツキさんの小説を楽しみに読んでいた読者なので、サツキさんからコメント頂けて嬉しいです。ホントにタダの自己満足の文章を読んで頂けて、嬉しい限りです。 (1月24日 21時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たろう | 作成日時：2023年12月15日 18時
