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「突っ立ってないで座れば。お茶でいい？俺、コーヒー飲まないからさ」
迷惑な来訪者にお茶をすすめる律儀さに、ああ、やっぱり好きだなぁと笑ってしまう。
「いいよ。お茶はいい。話そ？伊野尾ちゃん」
キッチンに向かいかけた伊野尾ちゃんを引き止め、こちらに来るように視線で促す。
唇をかみしめて、暫く逡巡したように視線を落として彷徨わせた後、伊野尾ちゃんは観念したようにこちらに歩み寄ってきた。
「とりあえず落ち着かないから、座って、山田」
俺へソファに腰を落ち着けるよう言って、自分は窓際に置いてあった木製の丸椅子をわざわざ運んで来て、斜向かいになるように腰掛けた。
『山田』と伊野尾ちゃんの口から出る俺の名前の響きは、俺があの旅館で伊野尾ちゃんに告白した日から変わってしまった。
意図的なのか、この人の強がりゆえの結果なのか。
今まで何かしらの感情を含んでいた、まるであだ名のような『やまだ』という響きから、『山田』という、ただ俺を表す苗字を呼ぶだけの記号になってしまった。
『山田』と形骸のみの記号で呼ばれるたびに、ツキンと俺の胸は痛んだ。
「その呼び方、やだ」
「？」
「わざと？わざとよそよそしく呼んでんの？」
何のことか分からないというように、少しだけ首を傾げて俺を見る伊野尾ちゃん。
「俺を呼ぶ時の響きが、何かやだ」
「意味分かんない。山田は山田だろ？」
「違う！呼び方は一緒でも、響きが違う」
「……お前、そんな事言う奴だっけ」
「元々俺はこんなですぅー」
「ガキかよ」
「ガキですぅー」
「馬鹿か」
「馬鹿だよ。さっきも言ったっしょ。俺は伊野尾ちゃんの事になると馬鹿になんの」
瞬間、伊野尾ちゃんの頬に赤みが差した。
何とも言えない複雑な表情で俺を睨む。
「そういう事、言うなっつってんだろ」
「だってホントの事だから」
赤くなった顔をその綺麗な手で覆い隠して、伊野尾ちゃんは俯いた。
「……山田。頼むから、もう俺を迷わせないでよ。お前も俺も、現実を知ってるいい大人だろ。お願いだから、これ以上俺にイヤなこと言わせないでよ」
伊野尾ちゃんは顔を隠した両手を、そのままぎゅっと握りしめた。
その繊細な手は震えている。
「俺、伊野尾ちゃんが好きだ」
「だから。俺の言った事聞いてた？」
「好きだ。伊野尾ちゃんと一緒にいたい。それを今日は言いに来た」
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たろう(プロフ) - 雪音さん» なんて嬉しいコメント！ありがとうございます。なかなか思ったように書けないなりにも、読んで頂いて感想まで頂いてホントに嬉しいです。気まぐれ更新ですが、またお目通し頂ければ嬉しいです。 (1月25日 22時) (
レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
雪音(プロフ) - 最後の2人が仲直りするシーンで感動して泣きそうになりました。たろうさんの書くお話いつも楽しみにしてます！ (1月25日 20時) (レス) id: 287eadd06c (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» ありがとうございます。これからもサツキさんに読んでいただけるように、頑張って更新したいと思います。 (1月24日 23時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
サツキ(プロフ) - 返信ありがとうございます！ヤバいです！たろうさんに読んでいただけていたとは…。なんか、ものすごく気恥ずかしいです💦たろうさんの紡ぐ綺麗な文が大好きです。お忙しい中とは思いますが、いろいろお話を楽しみにしています。 (1月24日 21時) (レス) id: 35bce03242 (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» コメントありがとうございます！なんて嬉しくて勿体無いお言葉を……（涙）。私もサツキさんの小説を楽しみに読んでいた読者なので、サツキさんからコメント頂けて嬉しいです。ホントにタダの自己満足の文章を読んで頂けて、嬉しい限りです。 (1月24日 21時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たろう | 作成日時：2023年12月15日 18時
