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『……はい？』
何度目かの呼び出しののち、愛しい人の訝しげな声が応答する。
「伊野尾ちゃん、俺」
『……は？』
「こんな遅くにごめん。でもどうしても話、したくて」
『……………』
暫くの沈黙の後、自動ドアが開いてエレベーターが俺を迎えに降りて来た。
無言の了解と受け止め、エレベーターで伊野尾ちゃんの部屋のある階まで上がる。
知念に聞いた部屋番号を探しながらマンションの通路を足早に歩いていると、一つのドアがゆっくりと開いた。
もう寝ようとしていたのか、それとも俺の来訪が彼の睡眠を妨げたのか、スウェット姿の伊野尾ちゃんが不機嫌そうに顔を覗かせた。
伊野尾ちゃんは無言で玄関に俺を迎え入れた。
深夜の突然の来訪を先ずは詫びようと口を開いた瞬間、あまり聞いた事のない伊野尾ちゃんの怒りの言葉が降り注いだ。
「お前、馬鹿なの！？こんな夜中に連絡もなく来て、俺が居なかったらとか思わないのかよ。仮にも有名人のお前が深夜にマンションの入口で待ちぼうけしてたなんて、誰かに見られたらどうするの？」
今日は良く馬鹿って言われる日だな。
まあ、きっと俺は大馬鹿者なんだろう。
「……だって、こうでもしなきゃ、仕事以外で会ってくんねえじゃん」
「だからって計画性無さすぎだろ。明日も仕事早いんじゃないのかよ。…ほんと馬鹿じゃないの」
「そうだよ、馬鹿だよ。俺は伊野尾ちゃんの事になると馬鹿になんの。だって、」
「言うな！」
今日イチ、鋭い勢いで伊野尾ちゃんは俺の言葉を制した。
「それ以上、言うな」
俯いていて表情は良く分からない。
でも、長めの前髪から覗く眉間にはぎゅっと深い溝が刻まれている。
暫くの沈黙の後、ふぅと息を吐いて、伊野尾ちゃんは俺を部屋の中へと促した。
「入れば。とりあえず。……玄関、冷えるし」
人と争う事が嫌いなこの愛すべき人は、無理矢理に懐に飛び込んだモノを完全に拒絶する事も苦手なんだろう。
一度許容してしまったら、もう自分からは捨てられないから。
だからこの人は他人を自分の心の中へは踏み込ませないのかも知れないと、ふと思った。
本当は情に篤い人だから。
「お邪魔します」
伊野尾ちゃんについて部屋の中に入る。
俺の部屋とは違って、無駄に装飾を省いた機能的な部屋は、そのまま理系脳の部屋の主を表しているように見えた。
それでも置かれているソファやテーブルは、個性的な形や材質の物で、それもまた一筋縄ではいかないこの人の内面を物語っている。
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たろう(プロフ) - 雪音さん» なんて嬉しいコメント！ありがとうございます。なかなか思ったように書けないなりにも、読んで頂いて感想まで頂いてホントに嬉しいです。気まぐれ更新ですが、またお目通し頂ければ嬉しいです。 (1月25日 22時) (
レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
雪音(プロフ) - 最後の2人が仲直りするシーンで感動して泣きそうになりました。たろうさんの書くお話いつも楽しみにしてます！ (1月25日 20時) (レス) id: 287eadd06c (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» ありがとうございます。これからもサツキさんに読んでいただけるように、頑張って更新したいと思います。 (1月24日 23時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
サツキ(プロフ) - 返信ありがとうございます！ヤバいです！たろうさんに読んでいただけていたとは…。なんか、ものすごく気恥ずかしいです💦たろうさんの紡ぐ綺麗な文が大好きです。お忙しい中とは思いますが、いろいろお話を楽しみにしています。 (1月24日 21時) (レス) id: 35bce03242 (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» コメントありがとうございます！なんて嬉しくて勿体無いお言葉を……（涙）。私もサツキさんの小説を楽しみに読んでいた読者なので、サツキさんからコメント頂けて嬉しいです。ホントにタダの自己満足の文章を読んで頂けて、嬉しい限りです。 (1月24日 21時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たろう | 作成日時：2023年12月15日 18時
