28 ページ28
知念の声はいつになく慎重で、少しだけ震えている。
「涼介は勿論辛いだろうけど、でも僕がこうやって話を聞いたりしてるじゃない。……でも、あの人はきっと一人だろうね」
いつだって、メンバーにすら弱味を見せないあの人。
俺への想いをひとりで抱えて、きっと俺を振った事への罪悪感すらひとりで抱えて。
あの薄い背中に全てを背負って。
ひとりで泣くのだろうか。
あの時。
他の誰でもない俺が。
あの背中を救いたいと。
そう思ったはずなのに。
俺はやっぱりあの人にはかなわない。
あの人はいつだって俺よりも大人で。
俺よりも強くて。
あんなにも儚い。
「涼介……?」
俺はまた、知らない間にあの人に守られたのだろうか。
『俺は怖いよ』
そういったあの人は。
いつだって他人を優先するあの人が。
自分の保身ばかりを考えて、俺の告白を断るだろうか。
「俺……、ずっとガキだよね…」
テーブルの上で握りしめた自分の手が不意に歪んで見えた。
鼻の奥が痛くて、堪えた喉の奥もぎゅうっとした。
自分の声が震えているのが分かる。
ひと粒涙が溢れたら、その後は止められなかった。
あの人は、周りの期待を裏切る俺を憂いていたんだ。
あの人が俺の想いを受け入れて、恋人同士になった時、世の中から受ける冷ややかな視線が俺に向くことを憂いていたんだ。
いつだって、自分の事を二の次にする人だから。
「ちい……、俺がいちばんあの人を傷付けた…。あの人に辛い役回りを押し付けて…」
あの人に振られた俺は、受け身で傷ついていられた。
だけどあの人は。
次から次へ、自分の不甲斐なさとあの人への想いが、涙に代わって溢れてくる。
「でもそれは、…いのちゃんが望んだ事だよ」
知念が俺を慰める声。
何で。
「何で、ちいも泣いてんだよ」
「だって。涼介もいのちゃんも、悪くないのに」
悲しいよ。
そう言って、俺と伊野尾ちゃんを思って涙を流す知念。
伊野尾ちゃん。
知念は伊野尾ちゃんを思って泣いてくれてるよ。
伊野尾ちゃんのそばに。
すぐに行けたらいいのに。
ひとりで泣かなくてもいいように。
276人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たろう(プロフ) - 雪音さん» なんて嬉しいコメント!ありがとうございます。なかなか思ったように書けないなりにも、読んで頂いて感想まで頂いてホントに嬉しいです。気まぐれ更新ですが、またお目通し頂ければ嬉しいです。 (1月25日 22時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
雪音(プロフ) - 最後の2人が仲直りするシーンで感動して泣きそうになりました。たろうさんの書くお話いつも楽しみにしてます! (1月25日 20時) (レス) id: 287eadd06c (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» ありがとうございます。これからもサツキさんに読んでいただけるように、頑張って更新したいと思います。 (1月24日 23時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
サツキ(プロフ) - 返信ありがとうございます!ヤバいです!たろうさんに読んでいただけていたとは…。なんか、ものすごく気恥ずかしいです💦たろうさんの紡ぐ綺麗な文が大好きです。お忙しい中とは思いますが、いろいろお話を楽しみにしています。 (1月24日 21時) (レス) id: 35bce03242 (このIDを非表示/違反報告)
たろう(プロフ) - サツキさん» コメントありがとうございます!なんて嬉しくて勿体無いお言葉を……(涙)。私もサツキさんの小説を楽しみに読んでいた読者なので、サツキさんからコメント頂けて嬉しいです。ホントにタダの自己満足の文章を読んで頂けて、嬉しい限りです。 (1月24日 21時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たろう | 作成日時:2023年12月15日 18時