8日目 yb ページ36
今日は光と二人で撮る、オフ風動画の簡単な打合せの為に事務所に来ていた。
最近何かと光と一緒の現場が多い。
子供の頃からずっと一緒のグループで活動していて、話をしなくてもお互い何を考えているか何となく分かる。
良く『老夫婦』みたいな言われ方をするが、まあ、悪くない。
それだけ気を許せる相手だって事だ。
そして光と一緒の現場になると、ここ数日頭に浮かぶのは、同じように近い所でずっと仕事をしてきた伊野尾の事だった。
光と二人、与えられた控室まで、簡単な今後のスケジュールを伝えに来たチーフマネージャーをつかまえる。
ここ最近は特に伊野尾の件で、スケジュール手配や各方面への配慮、お詫びなど、イレギュラーな業務も重なって、その顔には疲れが見えた。
忙しそうなところ申し訳ないけど、それでも確認したい事があった。
「伊野尾の退所の件ってさ、だいたいどの辺りまでガチで話進んでんの?」
数年来俺たちにと一緒にこの業界の荒波を乗り越えてきてくれた男は、鼻の付け根にギュッと皺を寄せた。
「う〜ん……正直、俺にはわからん」
「わからない?」
「伊野尾から、直接『辞めたい』と聞いたのは2か月ほど前。唐突に電話が掛かってきて、『とにかく出来るだけ早く辞めたい』って、その一点張りだった」
マネージャー曰く。
尋ねても頑なに理由は言わず、メンバーの俺たちに伝えるよう促しても、退所の日が決定してから言う、と譲らなかったらしい。
いかにもあいつらしい。
強く慰留したが本人の意志は相当に固くて、それじゃあ仕方がないと、事務所の上の方に相談して仕事の調整をしようとしていた。
けれど仕事は減るどころか、単発の伊野尾指名の仕事ばかりがタイミング良く入り、生真面目な伊野尾もそのまま拒まずこなしていたとの事。
本人の意志を最優先にするうちの事務所にしては、おかしな様子だとマネージャーも思ったらしい。
まるで伊野尾の責任感を逆手にとって、あいつを雁字搦めにしているようだったと。
だから、伊野尾が行方不明になった時、遁走したと疑われたのだ。
「あいつに辞めたいと言われた時点で、俺はマネージャー失格だけど、あいつの希望を無視して仕事を入れてくる上の方に、ちょっと感謝してた俺は、人間も失格かもな」
でも、とマネージャー。
「やっぱりまだまだ伊野尾と仕事がしたいし、全員揃ってるお前らが、やっぱり俺は好きなんだろうなあ」
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たろう(プロフ) - ぽんたさん» コメントありがとうございます。私も病系をよく読んでしまいます。拙い文章読んで頂いてありがとうございました。 (2023年1月25日 20時) (レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんた(プロフ) - 連載お疲れ様でした!精神的にも身体的にも弱った伊野尾くんが凄く好きでした。 (2023年1月25日 19時) (レス) @page49 id: 26174ade27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たろう | 作成日時:2022年12月24日 20時