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「あのさぁ、伊野尾ちゃん。事務所辞めたいってホントなの？」
こういう時、俺は回りくどい言い方が一切出来ない。
大事なグループの話だし、大事なメンバーの事だから。
それまでの和気あいあいとした雰囲気が、サッと一転した。
薮ちゃんが俺を見て『すまない』だか『ありがとう』だか言いたげな視線を寄越した。
この話を切り出してくれて、ということだろう。
メンバーが一斉に伊野尾ちゃんを見つめる。
当の伊野尾ちゃんは、暫く俯いた後、何か決心したように顔をグッと引き上げた。
「うん。本当。ごめんね、黙ってて」
その顔にはいつもの笑顔。隙がない、『伊野尾慧』の笑顔。
「理由、きいてもいい？」
あくまで冷静に、と俺は自分に言い聞かせる。
「他に、やりたい事が出来たから」
伊野尾ちゃんは、俺からいっさい目を逸らさずそう告げた。
でも俺も怯むわけには行かない。
続けて尋ねる。
「他にやりたい事って何？」
「それって今のままじゃ出来ない事なの？」
裕翔が哀しそうな顔で伊野尾ちゃんを覗き込む。
「うん、そうだね」
ゆっくり頷く伊野尾ちゃんの『笑顔』は崩れない。
その大人ぶった態度に、俺は猛烈にカチンとくる。
「それ、自分勝手すぎない？ねえ、15年だよ？15年一緒にやってきて、他にやりたい事出来たから、抜けたいなんて。1年2年じゃないんだよ……」
「うん。わかってる」
相変わらず、変わらない表情。
「……わかってねぇよ。アンタ、全然わかってない！！」
自分でも驚くほど大きな声が出てしまった。
メンバーの視線が俺に集まる。
特に知念は何か言いたげな表情だった。
伊野尾ちゃんは笑顔を引っ込め、神妙な顔で俺を見ている。
「自分勝手だって事も、すぐには理解してもらえないって事も、わかってる」
そして、今日何度も下げたであろう頭を、また深く下げた。
「でも、ごめん。もう決めたから」
伊野尾ちゃんの態度は、悲しい程頑なだった。
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たろう(プロフ) - ぽんたさん» コメントありがとうございます。私も病系をよく読んでしまいます。拙い文章読んで頂いてありがとうございました。 (2023年1月25日 20時) (
レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんた(プロフ) - 連載お疲れ様でした！精神的にも身体的にも弱った伊野尾くんが凄く好きでした。 (2023年1月25日 19時) (レス) @page49 id: 26174ade27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たろう | 作成日時：2022年12月24日 20時
