6日目 in ページ25
翌朝、杉山さんは俺を軽トラックで駅まで送ってくれた。
下着と一緒に買っていてくれたのだろう。
杉山さんが出してくれた真新しいスウェットのパンツとパーカーを着込み、紙袋に買い取り確実のボロボロの衣装を入れた。
鄙びた私鉄の駅は人気がなく、電車の本数も驚くほど少ない。
杉山さんは、
「どれ、切符も買ってやろう。何処まで行くんかい？」
と、俺に持ち合わせがない事を知っていて、小銭入れからお金を取り出そうとする。
「大丈夫です。知り合いに連絡取って、迎えに来て貰います」
『知り合いに』の部分で安心したのか、小銭入れをポケットに収めて、杉山さんは頷いた。
「それならええ」
「杉山さん。本当にお世話になりました。ちゃんとあらためて御礼に伺います」
「そんなんは無用だわ。夢見が悪いと思って、たまたまあんたを拾っただけだから」
「では、今度は猪の捕り方教えてもらいに来ます」
「………教えてやるような程でもねえわ」
杉山さんは呆れたように破顔した。俺も自然と笑顔になる。
「達者でなぁ」
ひょいと片手を挙げると、拍子抜けする程あっけなく、杉山さんは戻っていった。
去っていく白い軽トラに、見えなくなるまで頭を下げる。
ふと、俺はあの荷台に載せられて運ばれたのかなと思った。
普段は畑の作物やら猪など積んでいるのだろう。
素敵な人だったな。
さて……。
年季を感じる駅員室に向かい、声をかける。
取り敢えず、スマホを少しでも充電させてもらって、マネージャーに連絡をしよう。
申し訳ないけど、駅まで迎えに来てもらって。
それから……。
それからの事はそれから考えよう。
駅員さんのご好意で少し回復したスマホで、チーフマネージャーに連絡を取る。
耳が痛くなるような大声量で俺の名前を確認した後、至急車を差し向ける旨を伝え、何度も何度も体調確認をしてくる。
俺はその様子に、あらためて心配をかけてたんだな、申し訳なく思い、とにかく『ごめんなさい』と『大丈夫です』を繰り返した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たろう(プロフ) - ぽんたさん» コメントありがとうございます。私も病系をよく読んでしまいます。拙い文章読んで頂いてありがとうございました。 (2023年1月25日 20時) (
レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんた(プロフ) - 連載お疲れ様でした！精神的にも身体的にも弱った伊野尾くんが凄く好きでした。 (2023年1月25日 19時) (レス) @page49 id: 26174ade27 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たろう | 作成日時：2022年12月24日 20時
