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グループでデビューしてから、俺個人に来たＣＭは初めてだった。
あまり聞いたことのない企業名だったが、後ろに大手の広告代理店がついているようで、事務所もそれなりに旨味があると踏んだのか、企画を了承したようだった。
名が多少は売れたことの洗礼や若気の至りもあり、数年前にある事無い事ゴシップ誌に書かれたお陰で、個人のＣＭなど縁のないモノだと思っていたから、それは青天の霹靂だった。
単純に嬉しかった。
俺個人を必要としている企業があるんだな。
ここ数年でついてしまったスキャンダルイメージをおしてまで、俺にオファーするとはなんて奇特な…。
でも、求められたらきちんと応えたい。
そう思っていた。
『打ち合わせと顔合わせを兼ねて、１度会って話がしたい』。
クライアントの担当者がそう希望していると、マネージャーから話があったのはそれからすぐ。
珍しいとは思ったが、事務所のマネージメント統括から直接下りてきた話らしく、『まあ、企業のイメージＣＭならそういう事も有るのだろうか』と、さして気にせず事務所で用意してくれたミーティングルームに向かった。
何度か打ち合わせや会議で使ったことのある見慣れた部屋の扉を開けると、そこには思いもよらない人物がいた。
『伊野尾くん、久しぶり』
『のん………野田？』
『覚えててくれたんだ。嬉しいよ』
俺が『野田』と呼んだ男は、俺が扉に手をかけたまま止まっている姿を見て、ニッコリと微笑んだ。
ひょろりとした長身に、細身のスーツがよく似合っている。
『今回のオファーくれたのって、野田だったの？』
野田はJr時代に一緒に活動していた仲間だった。
同じグループにこそならなかったが、俺や薮より少し後に入所して、先輩たちのステージのバックで一緒に踊ったり、レッスンを受けに行ったものだ。
『うーん、正確にはね、うちの後ろ盾の代理店のご希望』
もともと細い目をさらに細めて、短く刈られた頭をひと撫でする。
そこには一緒に活動していたJr時代の可愛らしい面影はない。
『そっか、そっか。でもありがとう。ＣＭのお話頂けて嬉しいです』
ぺこりと頭を下げる。
『では早速ですが、仕事の話をしましょうか。えーと、伊野尾さんもお忙しいでしょうから』
俺が頭を下げたのを見て、野田も仕事モードになったようだった。
マネージャーと俺をミーティングルームの椅子に促し、資料を取り出す。
きちんと社会人してんだな。
子供の頃の野田を思い出し、ぼんやりそんな事を考えた。
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たろう(プロフ) - ぽんたさん» コメントありがとうございます。私も病系をよく読んでしまいます。拙い文章読んで頂いてありがとうございました。 (2023年1月25日 20時) (
レス) id: ad9f11bcb3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんた(プロフ) - 連載お疲れ様でした！精神的にも身体的にも弱った伊野尾くんが凄く好きでした。 (2023年1月25日 19時) (レス) @page49 id: 26174ade27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たろう | 作成日時：2022年12月24日 20時
