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「んえ? え?」
野薔薇を連れてきたのは、私も悟もよくお世話になっているお寿司屋さん。
いかにも、という感じの風格に、野薔薇を目を丸く口が開いたままだ。
そんな野薔薇に「入るよ」と声をかけ、さも当たり前のように入っていく私。おどおどカチコチした様子で、野薔薇もあとに続いた。
「すまないけど、今は準備中なんだ__ってAさんじゃないか! いらっしゃい!」
戸が開いた音に反応して、声をかけてくる店主、もといこの店の大将。
私はニコリと笑みを浮かべた。
「準備中ごめんなさいね。この子に、この店のお寿司を食べさせてあげたくって」
「Aさんならいつでも大歓迎だよ! これまたきれいなお嬢さんだねぇ……、早くお席へどうぞ」
誰もいないんだし、せっかくの初高級寿司なんだし、個室に行く必要はないか。
私は大将の目の前にあるカウンター席のいすを引くと、野薔薇に向かって綺麗に微笑んだ。
「どうぞ? 野薔薇」
野薔薇は一瞬にして、顔をリンゴのように赤らめた。そして、促された通り座る。
私も隣に座った。
「いつものでいいかい?」
「ええ、2人前ちょうだい」
「はいよ」
大将は準備に取り掛かる。
少しの間、沈黙が流れた。野薔薇は相変わらず、顔を赤らめ下を向いたままだ。
このまま無言のわけにもいかないので、私はゆっくりと口を開き、言葉を紡ぐ。
「野薔薇、高専は楽しい? 呪術師、やっていけそう?」
呪術師、という単語に野薔薇はバッと顔を上げる。
口をパクパクさせたかと思うと、私と大将に目線をやった。
ああ、そういうことか。
「大丈夫よ。ここは悟もよく来るし、御三家も気に入ってる。全部わかってる店なのよ」
はっと息をつき、安心した表情を見せた。
「私はAさんほど大層な理由で、呪術師になっていません。でも呪術師になると決めてから、後悔したことは一度もありません。私が私であるために、私は呪術師になった!」
力強く、こちらに訴えてくるような目。
ああ、久々だ。この感じ。
確固たる信念を持っている、綺麗な目。
この子なら大丈夫だと、安心できる。そう思わせる力。
「そう。期待してる」
悠仁も恵も野薔薇も。真希も棘もパンダも憂太も。
「はい!」
みんな、期待してる。
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作者名:あわ | 作成日時:2023年12月3日 20時