瞼に【ツリメ】 ページ4
注:主人公の方が少し年上な設定です
空模様と同様、私の心中も淀んでいた。
浮かぶ考えはどれもびっくりする程暗い物ばかり。お母さんが知ったら泣き出してしまいそうな事すら考えてしまう。
ついこの間閉店した古本屋の屋根は小さいが私一人が入るには十分。周りに誰もいないのを良いことに、ざあざあと降り注ぐ雨の音に隠れて静かに涙を流す。
情けない。自分でもそう思う。家からそう遠くもないこの場所で何をやっているんだろう。
かといって、家に帰る事も出来ない。家族を心配させてしまう事だけはどうしても避けたかった。
ピショ、ピショ。唐突に響いた音と共に曲がり角の方に人影が現れた。此方に歩いてくる、コンビニ傘をもった茶髪の男性。相手が知り合いじゃなくても泣いている所を見られるのは嫌で、慌てて涙を袖で拭いつつ顔を隠すように俯く。
通り過ぎるだろうと思っていたその人物は、意外にも私の正面で足を止めた。
「Aさん?」
懐かしいその声に目線を持ち上げると、そこにはこれまた懐かしい顔があった。
「え、みっくん…」
そう呟いた自分の声は掠れていて、それを誤魔化すように一生懸命明るく言葉を続けた。
「あれ、帰ってたんだー?」
「うん、昨日の夜」
「そっかー、こんな所で会えるなんて凄い偶然だね!」
普段通りに振舞えてるだろうか。
そもそもみっくんと最後に会ったのはいつだったっけ。二、三年前かな?二年前の自分って、どんなだったっけ。
まだいくつもの失敗を犯していなかった自分。ああ、もう思い出せないや。
「その髪、にあってるねー!服も凄いオシャレ、都会男子って感じ!遠目じゃみっくんって分かんなかったー」
何言ってんだろう。自分は、何を喋っているんだ?でも、喋り続けなきゃ。笑い続けなきゃ。そうじゃないと、また泣き出してしまいそうだ。
「Aさん、どうして泣いてたの?」
いきなり核心を突かれた私は慌てて自らの目下に触れるも、そこに涙はない。逆に、頬には確かに湿った感触が少し残っていた。
「別に、泣いてなんてないよー?雨に濡れちゃっただけ」
我ながらとても苦しい言い訳だ。現に私の服はほぼ濡れていない。降り出した瞬間ここに入ったからだ。しかしこれ以外には何も思い付かなかった。
せめて声音と表情で誤魔化せないだろうか。動揺が顔に出ないように、精一杯の笑顔を作る。
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作者名:花亜茶 | 作者ホームページ:https://twitter.com/chamomilue
作成日時:2017年12月22日 8時