【男主】タイムカプセルを埋めた日【オリジナル】 (ページ7)

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7話ページ7

俺は知っていた。自分には才能がないと知っていた。

母さんが褒めてくれる言葉が嬉しくって頑張ったけれど、無理だった。
父さんの期待に応えたくって頑張ったけれど、無理だった。

失望されるのが怖くって隠してきた。気づかれたくなくて、気付かれる前に楽譜を埋めた。

最初からなかった才能を、埋めた。

「才能なんて、なかったんだ。プレッシャーが重かったんだ。嫌われたくなかったんだ」

それも嘘だった。拓真相手に少しだけ見栄を張っていた。
気付いていた。嫌われたくなかったのは両親だけじゃなかった。近所の人たちもだった。

「……うん」

「才能なんて、なかった、だから、俺は……ここに埋めたんだ。昔の俺を。プレッシャーに押しつぶされそうな、情けない俺を」

そのプレッシャーだって自分で作ったものだった。自分で広めて、自分で苦しんで、自業自得だったのだ。誰も期待なんてしていなかったのだ。

「うん」

「母さんは、なんていうかな。今更、ピアノを弾いたところで、どうにもならないかな」

母さんと父さんを悪者にして、自分は悪くないと言い張った。広めたのは自分なのに、それを期待してくれた二人のせいだと言い張った。
身勝手な自分に嫌気をさしていないだろうか。

「そんなことないよ。失望なんてしない」

拓真の声には安心感があった。強くて、優しい、ずっと聞いていたい声。
涙を流す俺の背中を撫でる手も柔らかい。

「泣き止んだら、帰ろっか。大丈夫、才能なんてなくたって、俺は翔の音楽が好きだし、翔のお母さんも翔が大好きだよ」

タイムカプセルを埋めた日、その日俺は、俺自身を埋めたのだ。

情けない過去の自分を、なかったことにしたかったのだ。