3話 ページ3
ザクりといい音がし、何度もスコップで土を掘る。
ズボンの裾を捲ったはいいけれど、既に手遅れのようだ。
土がついているけれど、後でまとめて払えばいいかと、地面を掘り進める。
「拓真、俺を連れ戻しに来たんじゃないのか」
同じように土を掘り進める拓真に尋ねれば、バレちゃった、と笑って見せた。
なにが、バレた、だ。もとから笑っていることの多い親友は、ほかの感情を見せようとしない。
「うん、翔のお母さんから電話があって、そっちに行っていないか、って」
「……自分で探せばいいってのに」
あの親だったら、普通に探しに来そうなのに珍しいな、と声をもらす。
父さんが帰るのをまって、探しに行こうとでもいうのか。それとも、帰ってくると信じているのか。
「まぁまぁ。翔がどこにいるか心当たりがあったからさ、探してきます、って言ったわけ」
「探したのか？」
「いや、家の前通ると思ってたから待ってた。母さんには、ちゃんと帰るの遅くなるかもって言ってきたから安心して」
「お前……付き合わせて、ごめんな」
「なに言ってんの。いつも突き合わせてたのはこっちだからな。それの詫びだよ。悪いと思うんなら、明日ジュース奢ってくれればいいし」
お前は俺を付き合わせてたっていうけど、俺は知っていた。
お前が俺の息抜きの為に外に連れ出してくれていたこと。
暗い部屋にいる俺に、明るく話しかけてきたお前は、俺のヒーローだったんだ。
日曜日の朝にやっている戦隊モノヒーローよりも近くにいるヒーローは俺の憧れだった。
「じゃあ、おしるこでいいか？」
「いま夏なんだけど、俺をどうしたいのかな？」
「火傷させたい」
「お前が火傷しろ」
いままで拓真は母さん達の許可をとって遊びに来ていると思っていたのに、偶然聞いてしまった悪口によって、真実を知ったあの日。
その日から、俺のなかで柚井拓真はヒーローになった。
『あの拓真とかいう子、いつ翔に怪我をさせるかと思うと怖くて……』
『翔は有望なんだ。あの子なんかに将来を潰されてたまるか』
俺を苦しめる言葉は、未だに胸の奥にある。
どんなに変わろうと思っても、その黒いものだけは、変わらずそこにあった。
ラッキーナンバー
8
ラッキー方角
西 - この方角に福があるはずです
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：朝霧 | 作成日時：2016年8月20日 20時
