10話 ページ10
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気がつくと、そこに男子生徒はいなかった。
いつのまにいなくなったんだろう。彼の逃げ足が早いのか、俺がぼんやりしているのか。
それはそうと、保健室に戻るとするか。あの女に文句を言おうと言っていたところで邪魔が入ったんだ。今度は邪魔なんて入らない……だろう。
「平木」
……早々に邪魔が入った。
そう声をかけてきたのは、隣のクラスの委員長……藤田恵だ。
あんな話をしたからだろうか。少し顔を合わせづらい。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、彼女は俺の顔を覗き込むようにして、口を開いた。
「今から保健室に行くんだよね?だったら、このノート渡してきてよ」
「……わかった」
誰に渡せばいいのか、さっぱりわからないがな。
「今、自分で届けに行けばいいのにって思ったでしょ?顔にばっちり出てたよ。私だって届けに行きたいけどさ、正直言ってやらないといけないことが沢山あるんだよ。だったら、平木に任せた方が楽じゃない?」
「……お前みたいなのが学級委員か」
「酷いなぁ。ていうかさ、学級委員だからって頑張る必要とかないんだよ。別に、ちゃんと人並みにこなせば誰も何も言ってこないっていうのに。それに、彼女もあんまり知らないクラスメイトよりも知ってる友達の方がいいでしょ」
やけに饒舌な彼女の話に相槌をうちながら、俺は窓の外を見つめる。
運動部の彼らは、今日も元気にグラウンドを走り回っていて、なんというか……俺とは正反対だ。
「……ぼんやりしてるね」
「あ?ごめん。なんか大事な事話してた?」
「別に。それじゃ、私は用事があるからこれでね」
要件を伝えた藤田は早々に背を向けて、立ち去っていく。
あぁ、どこか冷たいじゃないか、お前もさっきの話を引きずっているのか、なんて聞けもしないことを考える。
俺もさっさと保健室に行くとするか。
思いもよらないところで時間をくってしまった。
藤田から渡されたノートを握りしめ、足を進めていく。
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作者名:朝霧 | 作成日時:2016年3月11日 23時