9話 ページ9
彼女に言われた通り、俺は自分のクラスの前に立っていた。
扉の向こうから、男どもの汚い笑い声が聞こえてくる。
あぁ、よりによって苦手な奴らが溜まっているとは。
あいつらも嫌だが、俺の記憶も取り戻したい。
仕方がない、俺は勇気を振り絞って、扉を開けた。
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『××君にお願いあるんだけどさー、ちょっと自販機でジュース買ってきてくれねぇ?俺はコーヒー』
『あれ、××君自販機行ってくれるんだ。嬉しーなー?オレはファンタな、サンキュ』
『俺も買ってきて欲しいなぁ?○○のとこのココアね、それ以外持ってきたらどうなるかわかってるよな?』
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扉を開けた先には、俺の苦手な奴らが溜まっていた。そんなことはわかりきっていたけど、顔を合わすとやっぱり気まずい。
「平木じゃねぇか。忘れモンでもしたか?」
「あ……うん……。まぁ、その、気にしないで」
「気にするに決まってんだろ!無くし物でもしたか?探すぜ?」
無くし物も忘れ物もないんです。そう言えたら幾分かマシだったんだけどな。
俺に笑顔を向けて、優しく優しく訪ねてくる彼ら。
あぁ、そんな風に気を遣ってくれるなんて……。
とても吐きそうだ。
いつもの奴らは暴君で笑顔なんて向けないだろう?それが唐突にどうしたっていうんだ。
なにか悪いことを企んでいるのか?だとすれば、一目散に逃げるべきだろう。
「……なんでも、ない……」
挙動不審だっただろうか?けれど、奴らは微笑みながら気をつけて帰れよと声をかけてくれた。
大丈夫、なにもおかしなところはなかったさ。
**
ふぅ……と一息ついて、保健室の方に足を向ける。
記憶なんてなかったじゃないかと文句を言ってやろう。
「どこに行くんだ?」
「……保健室だ。お前はどこに行くんだ?」
後ろから聞こえた声。たった数回しか話していないがすっかり印象に残ってしまい、振り向かなくても誰がいるのかわかるようになってしまった。
「別にどこにも行く気はない」
「……なぁ、今まで気になってたんだけど、お前って」
自分でもありえないと思う。
けれど、もし仮に彼が俺の忘れている彼だとすれば、とても納得がいく。
だが、その問は口にするまでもなかった。
「違うよ」
「え?」
「俺は広瀬春樹じゃない」
まさかの返答に俺は彼を凝視した。きっちりと着たブレザーと、頬にある傷が印象的な彼はニコニコと楽しそうに笑っている。
それが酷くイラついた。
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作者名:朝霧 | 作成日時:2016年3月11日 23時