8話 ページ8
「......だからこそ、だ」
「え?」
俺がそう言うと、女は少し驚いたような声をあげた。
痛む体を抑えつつ、俺はゆっくりと腰をあげる。
「親友だったからこそ、俺は俺の知らない広瀬を知りたいんだ。広瀬がなにを思っていたのか知りたいんだ」
腰を上げたことによって、女の顔が見えるようになった。
きちんと制服を着ている、長いポニーテールの彼女は表情を変えずに作業を続ける。
「そういうもの、か。わかった。話してあげるよ」
とは言っても、あんたよりは知らないけどと前置きをして、彼女は近くの椅子に腰をかけた。
「私にとって広瀬は、あんたの親友だったよ」
「……」
「私が保健室で仕事をしてるときとかに、二人で駆け込んできて広瀬があんたの手当てをしたりしてたじゃん。だからかな、広瀬といえば平木、平木といえば広瀬みたいなイメージがあった」
言われてみれば、俺達はいつも一緒にいた。どうしてかは思い出せないけれど、広瀬の隣はとても落ち着いて、心が安らぐ場所だったんだ。
怪我をしやすい俺は、広瀬と共に保健室をよく訪れていた。
突き指に擦り傷、切り傷と怪我バリエーションが様々な俺を広瀬は笑ってたなぁ。
怪我をする天才だなんて不名誉な事も言われた気がする。
「私、あんた達が羨ましかったよ」
「え?」
「私とあんたは同じだったのに……あんただけ親友に出会っちゃってさ。あのときは本当に裏切り者って思った。ふふ、そんなんだから親友に出会えないんだよって感じじゃない?」
「……」
思い出話をするように懐かしい話をするように、彼女は笑った。
初めて見た彼女は、楽しい話なんて微塵もしていないのにとても嬉しそうでーー
「だから、あんたが心配だった。その心配は的中したんだけどさ。あんたが私を忘れるのは仕方がない。潔く諦めるよ。けど」
チクタクチクタクと時計が動く、時間はいつでも動いている。だというのに、俺にとってはその一秒が一時間のように感じた、
そして彼女は、俺の目をしっかり見て、その言葉を放った。
「広瀬を忘れることは許さない」
「……」
「広瀬はあんたを助けた恩人だ。少なくとも、私にはそう見えた。だから、広瀬を助ける事が出来るのは、あんただけだよ」
「……うん」
一秒が一時間に感じる。そんなことありえないというのに。
わかっているのに。
「あんたのクラスに、あんたの記憶のヒントがある。行ってこい、平木」
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作者名:朝霧 | 作成日時:2016年3月11日 23時