カブトムシと写真.弐 ページ8
ーーー
｢兄貴、ごめん。俺＿＿＿｣
｢失せろ｣
｢待って……兄ちゃん！｣
｢俺に弟なんざ居ねェんだよ。失せろ｣
あんな会話をしたのは、いつだったろうか。
ーーー
｢………は？｣
柱合会議の真っ只中だった。
素っ頓狂というか、間抜けというか、そんな声が広間に響いたのは。
目をビキリと開き、下げていた頭を上げた実弥。
(今…聞き間違い、か？)
一瞬フリーズして、我を取り戻した様にガバリと頭を下げる。
｢申し訳御座いません。とんだ無礼を｣
｢大丈夫ですよ。ご事情は承知の上ですので｣
産屋敷あまねの澄んだ声が、その場に響いた。
柱合会議で発表される、選別合格者。実弥は正直、弱味噌しかいない、聞くだけ無駄だと思っていた。仕方ないだろう。彼は鬼を滅殺する為なら、その手段は選ばない。
だが、今回は違った。
しんとした空気の中で、実弥は再び口を開く。
｢もう一度、読んで下さいませんでしょうか。もしかしたら俺の耳が可笑しいのかも知れません｣
包帯でグルグル巻にされた自分の手を見つめて、実弥は薄く笑った。
信じたくなかったのかも知れない。
｢はい。今年の選別合格者は、
竈門炭治郎さん
我妻善逸さん
栗花落カナヲさん
嘴平伊之助さん
そして＿＿
不死川玄弥さんの、五名で御座います。｣
頭が、ガツンと打たれた様な気がした。
ーーー
｢＿＿川……不死川｣
ビクリ、肩が揺れた。
｢なんだ、用があるなら…｣
｢いつもの不死川らしくないな｣
煉獄に、そう言われた。
あの鈍感な煉獄なのに、何故かこういう時だけ鋭い。
｢うるせぇんだよ、俺は知らねェ｣
目を逸らして、急いで部屋を出る。そうでもしないと、すぐバレてしまう。弱い自分なんて見せたくない。
まるで、暗い沼に引きずり込まれた様な感覚だった。
(………全てが泡になる、全て)
玄弥だけは近付けたく無かった。こんな、命懸けのいつ死ぬか分からないものなんて。
それでも、少し
玄弥の＿＿＿弟の顔を見れるという事に、安心した自分に
一番虫酸が走った。
ーーー
｢………不死川さん？｣
ずっと一点を見つめたまま動かない実弥に、Aは声をかけた。
ツラ貸せや、と言われたのに動かない。
｢＿＿＿飯でも食うわ｣
｢ツラは貸さなくていいんですか？！｣
｢おめェは素振りでもしてろボケが｣
(こんな事考えるとかガラでもねぇ)
何故か、青空に溶けて消えてしまいそうな気分だった。
＞＞＞続く
終わり
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作者名：あられ | 作成日時：2022年6月12日 13時
