愛は故郷にありました。 (ページ4)

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日常1 ページ4

和サイド

患「ねぇ和くん、聞いた？Aちゃん帰ってきてるって。二日前だったかな、フェリー降りてタクシーでおうち向かったって。一人だったみたいよ。」

島唯一の診療所は診療所なのか集会所なのか。

県立医学部を出て救急で1年、外科で1年研修医として勤めて俺は島に戻った。
もともと島の医療、いわゆる僻地医療というものに興味があったから夢が叶ったわけ。

でも、いつまでたっても、和先生って呼んでくれる人はほとんどいなくて。
ずっと和くんなんだよね。まあ親しみもってくれてるってことで良いか。
いつまでも頼りないって思われるんだったら嫌だなとふと思うこともあるけど、
みんなしょっちゅう来てくれるから(元気でも)頼られてるんだと思う。

患「でもね、それ以来だれもAちゃんのこと見かけてないって。ねぇどうゆうことだと思う？ずっと家にこもりっきりなのかしらね。神隠しにでもあったかね？」

「そんなわけないでしょー。久しぶりの帰省だからゆっくりしてるんじゃない？」

患「でも今までは東京からお土産もってきてくれたり商店街に挨拶に来てくれたり市場にお野菜買いに来てたわよ。それにいつだって必ず翌日にはお墓参りしてたわよ。」

確かにそうだったな。と記憶をたどる。
数年前の帰省の時は彼氏と一緒にお墓参りしていたのを往診途中見かけたっけ。

「じゃAじゃなかったんじゃない？だれか別人だったとか。」

患「はー？何言ってるの和くん、そんなわけないでしょ。Aちゃんのこと見間違うような人はこの島に誰もおらんがやね。もともとかわいかったけど東京に行ってあか抜けてべっぴんさんになったん忘れたん？忘れるわけないがね、和くんが。ずっとAちゃんのこと好きやったもんね。」

からかうような笑顔を向けてくる常連さん。

「何言ってるんですか中谷さん！ほら血圧測らせてよ。ここ腕乗っけて。」

患「あらーやっぱりそうやったんやね。ほっぺたあかーくなってるわよ和くん。そんなだからいつまで経っても和くんて呼ばれるんよ。」

「ほらさっさと腕乗っけて。」

母親くらいの年代の女性は本当に俺のことをからかうというか、かわいがってくれるというか。
息子って思ってくれてるんだろうけど、もうちょっと医者として威厳が欲しいところ。

患「だからさ、和くん」

「血圧測ってる間は話さないの静かにしてて。」

口を少しとがらせておとなしくなった。