愛は故郷にありました。 (ページ17)

今日:38 hit、昨日:28 hit、合計:480,883 hit

緊急事態3 ページ17

和サイド

こんな衝撃、診療所に勤めて初めてかもしれない。
緊急の帝王切開をしたときも、腹膜炎の緊急オペしたときもここまでの焦りや衝撃はなかった。

おそらく今目の前の状況がわからないからこれだけ驚いているんだろう。
しかも女性の下腹部に大きなおそらく20センチほどはあるガーゼが貼ってある状況。
何の手術を受けたのか、何の疾患を持っているのか、頭の中が混乱しそうだ。

「そのまま動かないでゆーっくり呼吸しててね。」

Aに言いながらも自分も深呼吸して気持ちを整える。

もし傷口がぱっくり開いてここでAに抵抗されでもしたら大惨事になりかねない。

観念したのかAは言われた通りおとなしくしている。

グローブをはめてゆっくりとドレッシング材をはがす。

あらわになった創は1週間も経ってなそうで、閉じていないかなり新鮮なもののように見える。
丁寧に縫合はしてあっただろう傷も、あちこち開いてしまっている。

これは尋常じゃない痛みだっただろう。
一体こんな状態で退院させたってどんな医者だ。まさか闇医者か？
まだまだ入院して安静にしてないといけない時期のはずなのに、東京からスーツケースもって5時間以上かけて島へ戻ってきたA。

どんな思いで気持ちで一人で帰ってきたのかはわからない。

「A、これだいぶ痛かったでしょう。辛かったね。」

そう言って頭をなでてやると目を閉じたまま涙を流した。

おそらく本人はまだ傷口を見ていない。
未婚の女性の体にこれだけ大きな傷が残るということは心にだって傷は残るだろう。
あれこれ思いが頭の中をぐるぐるするけれど、とりあえず今俺が医者としてしなきゃいけないことを考えないと。

「傷口が感染起こすと治りにくくなるのと、ばい菌が身体の中をめぐるとやっかいなことになるから、とりあえず診療所で手当てさせてね。熱があるのはおそらく術後熱だと思うけど、もし感染が疑われたら抗生剤の点滴もしなくちゃいけないから。大事なことだから教えて、いつ手術した？」

本当は何の疾患でどんな手術を受けたのかわかるのがベストだけれど。

A「先週の木曜。」

今日は金曜だから1週間前か。もしかすると体内の縫合も不全を起こしてる可能性もあるな。

「ありがとう。痛み止めだけ注射して、それから診療所行こうね。俺と清水さんだけだから心配いらないからな。」

これだけの傷を腹部におってるとなると身体への負担もかなり大きい。