愛は故郷にありました。 (ページ1)

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車窓からの景色ページ1

Aサイド

『必ず三日後には来てください。』

『重たいものは絶対に持たないこと。できる限り家で安静にしていること。』

『痛みがひどくなったり熱が出たり患部が赤みを帯びたりしたらすぐに連絡すること。』

新幹線に乗ってかれこれ3時間が過ぎた。
ぼんやりと外の景色を見ていると突然真っ暗闇に。

トンネルか。
窓に映った自分の顔、疲れてる。やつれてる。

松本先生が必ず来てくださいって何度も念を押していた三日後が今日。

私は病院に向かってない。ここ数年帰ってなかった故郷の島へ向かっている。

ごめんなさい先生。

とても心配してくれてたのに。
わがまま聞いてくれたのに。

母親が長年病に臥せっていて状態が良くないのでどうしても三日で退院させてほしいと何度も何度もお願いをした。

手術後、傷の経過や体力の回復のことも考えると通常2週間、早くても1週間。
それ以上は許可できない、と言い続けていた松本先生。

それでもあまりにも私が必死に訴えるものだから、

『じゃあ必ず3日後に診せにくるのを条件で』って退院させてくれた。

嘘つきな私。

母親は大学入学した年に亡くなった。父親も。

母「おいしい桃が今年もできたからもうすぐしたら送るからね。」

嬉しそうに電話で話したのが最後。

二日後に故郷の小さな島は大きな大きな台風が直撃して、
母も父も桃の木も私の前からいなくなった。家だけがぽつんとそこには残った。

はああとため息をつくと、傷口がズキズキ痛んだ。

幸い新幹線は空いていてスーツケースを置くスペースは確保できた。

『重たいものは絶対に持たないで。家で安静にしていること。』

何度も何度も真剣な顔で念押ししていた松本先生。
20キロ以上のスーツケースを嫌な汗をかきながら息切れしながら転がした今朝。

ごめんね先生。
きっと先生にはもう会うことないかな。ありがとう。

退院の時にそれまでずっと敬語だったのに

『大丈夫か？』

顔を覗き込んで聞いてきた。

どういう意味だったのかな。
手術のあとだから体が大丈夫かっていう意味だったのかな。

それとも何か察して聞いてくれたのだろうか。

もしかすると心もボロボロになっていたこと気づいていたのかな。

気が付くとだんだん懐かしい景色が見えてきた。
緑のきれいな季節だ。きっと外は暑いんだろう。
照りつける太陽が遠くに見える海の水面に反射してキラキラしている。

都会で生きていく、そう決めてキラキラの心で島を出たのは何年前だっただろう。