141話 ページ41
「行ったよ。花火はいっぱい見たし、楽しんできた。」
だったら私はいらないじゃない。私と花火をする必要なんて無いじゃない。その現実が苦しくて、辛くて、こぼれ落ちそうになる涙をぐっ、と堪える。
そうだよ、私だって、さっきまで花火を見ていたのだから、今から大貴と花火をする必要はないじゃない。
「じゃあ、もういいでしょ。」
涙を堪える私の声が、微かに震えた。この場から逃げるために、立ち上がろうと地面から腰を上げる。
「待てよ。」
しかし、大貴が私の腕を掴み、私の動きが止まる。
「何で逃げようとすんの?」
その言葉に、私はヒュッと息を飲んだ。
気付かないでよ。いつもみたいに鈍感でいてくれればいいのに。
「逃げようだなんて思っていないけど。」
冷静を装わなければならない。バレてはいけない。
「そ、じゃあ座って。」
と言って、大貴は再び自分の隣をぽんぽんと叩いた。どうしてそこまでして引き止めるの。変な期待を抱かせるの...
逃げているつもりはないと言ってしまった手前、私はもう一度そこに腰を下ろさなければならなかった。私が求め続けた大貴の隣に。
大貴は家から持ってきたであろう蝋燭に、不器用にライターを弄って火を付けた。私たちの周りだけが、微かにオレンジ色の光に包まれる。ユラユラと揺れる火の元に線香花火の先を近づけ、大貴はひとり、花火を始めた。私はそれを黙って見ている。
「何ボーッとしてんだよ、ほら、Aも!一緒にやろうぜ。毎年やってんじゃん。」
と言って、大貴は線香花火を持つ私の手を強引に火元に近付け発火させた。
そう。大貴の言う通り、私達は夏になると毎年一緒に花火をやっていた。だけど、大貴には彼女が出来て、私といる時間は減って、きっとこれからは、少なくとも今年は、大貴と一緒に花火をして楽しむことは出来ないと思っていた。そう覚悟していたのに。
「俺はさ、別に花火がしたいからAを誘ったわけじゃないんだよ。」
黙りこくる私をよそに、大貴は続ける。
「Aと一緒に花火をしないと、夏が始まったように感じないんだよな。さっきまでもそう。確かに花火は見たはずなのに、どこか少しつまらなくて寂しい感じ。」
大貴はパチパチと火花を散らす線香花火を見つめ静かにそう呟いた。夜も更け、辺りは静寂に包まれた中、大貴の声だけが響いた。
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瑠璃瑚(プロフ) - ラベンダー畑さん» ラベンダー畑さん お久しぶりです!以前もコメントくださりましたよね、ありがとうございます!心を抉られるその感覚が伝わっているのであれば、この小説の主旨が伝わったということで嬉しいです。ありがとうございます!お互い、体調には気を付けましょうね(笑) (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃瑚(プロフ) - 愛奈さん» 愛奈さん ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです!もっと沢山の方に読んでいただけるよう精進します! (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
ラベンダー畑(プロフ) - 再開されてたんですね! とても 嬉しいです! 細かい所とか 覚えてないから また 読み直そうと 思います 大貴の鈍感さが 一つ一つ 心 抉られます 主人公 可哀想 でも 告る方が 楽になるんじゃないかな? 更新 楽しみです 猛暑のなか 体調 気をつけられて (2018年7月21日 19時) (レス) id: ffe5259ca3 (このIDを非表示/違反報告)
愛奈(プロフ) - このお話、とても好きです!なんで赤星ではないんだろう。もっと多くの人に見てもらいたい!更新頑張ってください! (2018年7月21日 16時) (レス) id: 6fc34b8758 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃瑚 | 作成日時:2017年5月29日 11時